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しかし、次に聞こえてきたのは、もっと恐ろしい音と声でした。
銃声と悲鳴です。
「ソ連兵が上陸してきた!」
銃声の後に聞こえる悲鳴は、さっきまで町を歩いていた人たちの声……
窓ガラスが割れる音や、手榴弾が爆発する音が、だんだんと近くなってきました。
班長は言いました。
「もうじき、ここにもソ連兵が来ます。みんな、よく頑張りました。最後まで一緒に働けて幸せでした」
みんなでうなずき合います。
私達、残っている9名の交換手は、護身のために渡された包みを手に持ちました。
この建物にも、銃弾が当たる音が聞こえてきます。
ソ連兵は、すぐそこまで来ているのでしょう。
班長は、真岡郵便電信局の「業務終了命令」を出しました。
本来なら、局長が出すべき命令ですが、局長はここにくる途中、ソ連兵に捕まったそうです。
もちろん、そんな事情は、その時の私達には知る由もなかったのですが……
班長からの指示で、私は樺太から内地への最後の電話をすることになりました。
私は、北海道の猿払中継所に電話をかけます。
「現在、ソ連軍の攻撃を受けています。
よって、真岡郵便電信局は現時刻をもって、業務を終了します。
みなさん、これが最後です。
さようなら……さようなら……」
樺太から内地への、最後の電話を切りました。
私の電話交換手としての仕事は、これですべて終わりました。
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