最後の電話

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私が住んでいる真岡(まおか)の町は、とても北の方にあります。 真岡町は、北海道の北にある樺太(からふと)という島の南西にある港町です。 都会の方から疎開(そかい)して来た人や、新天地を求めて入植して来た人もたくさんいます。 樺太は、とても大きい島で、人口は40万人くらいです。 町と町の間はとても離れています。 なので、電話はとても大切なのです。 私は、生まれ育った樺太で、この広い島の通信を支える仕事をしていることに、誇りを感じています。 私は故郷である樺太(からふと)が大好きです。 けれども、少し心配なこともあります。 樺太には「国境線」があるのです。 日本は島国なので、外国とは海で隔たれています。 しかし、樺太の北の方は、「ソビエト連邦」の領土になっています。 樺太のちょうど真ん中あたりには、日本とソ連との国境線があるのです。 今、大日本帝国は米英と戦争をしています。 ソ連とは中立条約を結んでいるので、戦争はしないはずと学校で習いました。 けれども、ソ連とは昔、日露戦争をしたこともあり、ソ連は日本に恨みを持っています。 それで、この大東亜戦争のどさくさに紛れて、ソ連は日本に攻め込んでくるのではないか、とみんなで噂していました。 もし、ソ連が南樺太に攻め込んできたら、私が生まれ育った町、真岡はどうなってしまうのでしょう。 私の大好きな真岡の町が、どうか戦争に巻き込まれませんように…… 私たちは毎日、そう願っていました。
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