第1号 ダイナー店員と新聞記者、死神パワーで悪霊退治はじめました

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「エスター編集長」  休憩中だろうか、俺たちの直属の上司であるエスター編集長がコーヒーカップ片手に会話へと加わった。  アルマーニのスーツを着こなした細身の長身に、黒ぶち眼鏡をくいっと上げる様子は彼の無精ひげですら洒落て魅せる。これだけを聞くと、いかにもできる男という雰囲気だが、フレンドリーで俺たちも慕っている編集部のリーダーだ。 「おまえ、少し前にギャングの麻薬取引の現場に突入したよな」 「あんなの朝飯前ですよ」 「その前は暴走タクシーの後を追ってカーチェイスでしたっけ」 「二百キロは出ていたかな。絶叫マシーンいける口でよかった」 「この間なんか巨大竜巻が発生してその現場へ行ったとか」 「あれは正直死ぬかと思いました」  と、まあこの通り、俺の取材はどれも命がけのものばかり。それを不審に思ったのか、デックが恐る恐る手を挙げた。 「あのお……一応確認なんですけど、先輩は新聞記者ですよね?」 「当たり前だろ? 取材してるんだから」 「じゃあ、どうして先輩だけこんな危険な取材をしているんですか?」  核心を突くような質問に、コーヒーを啜っていたエスター編集長の口角が悪戯っぽくにいっと上がった。 「あー。それ聞く? 聞いちゃう?」 「え、聞いたらまずい事でしたか?」  デックは地雷を踏んでしまったのではないかとたじろいでおそるおそる俺に目を向ける。  深刻そうな彼に対して、俺はくすりと息を漏らすように笑った。 「いや、別にいいよ。そうだな……俺ってさ、おまえらみたいに頭良くないんだよ」 「それは分かっています」 「おい」  そこは「そんなことないですよ」の一言くらい言って欲しかった。 「まあ、恥ずかしい話、この会社に見合う学歴も職歴もなくてさ。でも夢があった」 「顔が良いからモデルとか?」 「なんでそうなるんだ。……高いところから見下ろしてよく言うよ」  十センチ以上頭上から考察された俺の夢は身長制限に引っかかってしまうものだ。
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