第1号 ダイナー店員と新聞記者、死神パワーで悪霊退治はじめました

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「おい、おまえ達。業務中におしゃべりとはいい度胸だな」 「げ……局長」  振り向くと、そこには仁王立ちで腕組をした局長が居た。スーツのボタンが今にも飛びそうな腹と絶対にまがい物の髪型――すなわちヅラの容姿から暑苦しさを感じる。 「おまえら、たるんでいるんじゃないか」 「たるんでいるのは局長の体型のほうでしょう?」と言いそうになり、慌てて口を紡ぐ。  彼は厳しいことでも有名だ。仕事中に雑談していたところなんて見られてしまったからには、これから嫌味まみれのお説教が降りかかるだろう。頭を抱えたくなった。 「特にデック。おまえ最近記事になるようなネタ掴んでいるのか?」  嫌味の矛先はデックへと向けられた。唐突な指摘に彼はあたふたとしながら、書きかけの新聞記事をデスクから手に取り、局長に差し出した。 「えっと、この間の迷子犬が救出された記事を――」 「そんなぬるいネタは要らない」  デックが差し出した記事は局長の手によって紙吹雪の如く無惨にも破り捨てられた。 「あっ!」 「局長! いくらなんでもやりすぎでしょ!」  俺が抗議しても局長は「おまえには関係ない!」と一蹴した。 「いいか。今やメディアはラジオやテレビが台頭する時代になりつつある。それらに勝てる新聞記事を書け!」  局長は破り捨てた記事を煙草の吸殻に灯る火を消すように踏みにじる。 「民衆が見たい物は人の不幸だったり、復讐劇だったり、もっと刺激的な内容だ! わかったな!」  酷い。こんな事が許されるのか?  デックは「……はい」と背中を丸めて俯いた。涙を堪えているのか、声は震えている。 「たく……口を動かさないで、もっと頭を動かしてもらいたいものだ。せっかく高学歴のエリートを採用したと思ったら――」 「局長」  我慢ならなくて俺は局長の言葉を遮る。局長は鬱陶しそうに顎をしゃくって俺を睨みつけた。 「おまえには関係ないと言っただろ」 「いいえ。デックはまだ新人です。彼の力不足は先輩である俺の責任です」  明瞭に言い放つ。するとあれ程に饒舌だった局長は口を噤んでこちらを睨みつけた。 「文句を言うなら、俺にお願いします」  局長を射るように見つめて俺は釘と、とどめを刺す。  すると彼は鼻を鳴らして「覚えてろ」と悪党のような捨て台詞を吐いてその場を立ち去った。 「先輩……」  怖い上司はいなくなった。それでもなお、おどおどとした様子でデックは俺を呼ぶ。  俺は先ほどまでの真剣な表情を緩めて彼の肩を叩いた。 「さっ! 行くぞ」 「え? どこに?」 「取材に決まってるだろ」  そう言い切ってカメラを手に取り、椅子に掛けていたモッズコートを再び羽織って俺達は街へと繰り出した。
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