第1号 ダイナー店員と新聞記者、死神パワーで悪霊退治はじめました

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 火が燃えているなら水か? 辺りの雪を両腕で抱え込み、標的となる炎にばしゃりと投げつけた。  だが、消火活動もむなしく黒い炎は煌々と燃え続ける。それだけじゃない。 「なんだよ……あれ」  辺りを燃やす炎は人間を燃やし尽きると、地面に白い灰だけを残した。  このままじゃ、デックも同じ事に―― 「くそっ! 消えろ! 消えろよ!」  嘲笑うようにデックを燃やし続ける黒い炎を俺はひたすらコートではたく。  意味がないことなんて、分かっていた。それでもどうにか――  奇跡を願っていたそのときだった。 「うおおおっ!」  雄々しい声を上げながら、声と同一の印象を持たせる大柄で強面の男が俺と炎の間に割って入る。 「な、なんだ!」  男は魚か爬虫類の骸が付いた大鎌をデックに向けて振る。俺は慌てて制止した。 「お前、やめろ!」 「下がってろ!」  しかし、彼は構わず大鎌でデックを切りつけた。いや、デックではない。黒い炎を斬ったんだ。  と、その時地面に何かが落ちる。 「なんだこれ……ナイフ?」  デックを包んでいた黒い炎は、男の持つ大鎌が纏った黄色い炎によってかき消されていった。黒いナイフを落として。 「よし……なんとか間に合ったか」  いつの間にか、デックを襲った黒い炎は忽然と姿を消す。  いや、それよりも、大鎌って――こいつ、一体何者だ!? 「うう……」  地面に倒れこんでいたデックがうめき声を出す。俺はすぐさま駆け寄った。 「おい! デック! 大丈夫か?」 「先輩……? ええ、なんとか」  受け答えは出来ている。意識はある。全身に焦げ付いたようなまだらなやけどを負っているようだが命は無事のようだ。 「……にしても、何なんだあいつ」  念の為、と思い俺はカメラで大鎌を振るう男を画角に収めてシャッターを切る。  それに気づくと、彼はこちらを見て迫力のある表情で叫んだ。 「ここは危ねえぞ! 早く逃げろ」  そう言うと、怖気づいたデックが俺の腕を掴んだ。 「に、逃げましょう! 先輩!」 「あっ……! おい!」  怪我人に促されてはどうすることも出来ない。俺はカメラが吐き出した男の写真を握りしめて奇妙な大火事の現場を後にした。
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