獄楽園

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 目覚めてから3時間が経過していた。閉じたカーテンを再び開いたが、外の景色は変わらず、上に流れていっている。最初はこのマンション全体が下りていると思ったが、次第にこの部屋だけがエレベーターのように降りているという結論に至った。  なぜなら、外は変わらない日常が進んでいるから。  今井がパソコンの電源を入れると、電気や水道が使えるようにWi-Fiも問題なく使用できた。つまり、この部屋のに発生している異常は、外の景色と窓や扉があかないことだけなのだ。部屋の中自体は昨日と何一つ変わりがない。  それと同じようにネットニュースを見ても、沈みゆくマンションなんて大事件の様に扱われてもいいような出来事について何一つ書かれていなかった。変わらない日常がそこにあるだけだ。  自分だけが今この下降現象の中にいる。だからマンションではなく、自分の住んでいるこの部屋だけの異常なんだと彼は思い始めていた。  ネットが使えるため、この現象についてどこかに訴えてみようという考えも浮かんだ。しかし、他人にこの非現実を認めてもらおうとする努力を行う気にはなれなかった。ネットで現状を公開したところで、たとえ動画を撮ったとしても合成と思われるだけだろう。  また、外部への連絡についても今の彼には相談できる相手はない。警察への通報とかも考えたが、説明するのも馬鹿馬鹿しい。それに、あの開かない玄関の扉が向こう側からこじ開けられたら、この非現実が夢のようになかったことになるんじゃないかと思えた  そうなると彼はただ、可笑しな発言をして助けを求めた迷惑な人間だ。気の狂った可笑しな奴として見られるだろう。  だから、外への連絡についてはどうしようもなくなった際の最終手段としておくことにした。  幸いなことに水道が生きてるため水には困らず、食料の買い溜めは多くはないが、とりあえず買ったばかりの5キロの精米があった。限界に近い状態だが、何とかなる。  それに、寝て起きたら嘘のように元通りになっているかもしれない。  今井は現実逃避をするようにカーテンを閉めて、いつも通りにパソコンを起動する。変わりなく、ゲームをしたり動画サイトで時間をつぶしたりしながら、一日を浪費していった。  その時間は、本当にいつもの無職生活と変わりない。現実そのものであった。
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