獄楽園

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 今一度現実をみなければならないと、今井が感じたのはもうすぐで1ヶ月になろうとする頃であった。  そうして、彼はカーテンを開いてじっと変わらない窓の外を見つめた。  そう言えば下降した先はどこなのだろうか。終点は一体どこなのだろうか。今井は疑問を抱いた。  考えてみると、ゆっくりとはいえ下がり続けてから多くの時間がたった。この部屋のなかの気温は変わらず、外の景色も変わらない。となるとこれは単に地球の底へ降りて行っているのではない。  オカルト的な考えを持つとしたら地底世界にでも行こうというのだろうか。実は地の底には都市があり、そこには地表とは違った文化圏が存在する的な。  そうだとしても自分の命が保証されるわけではない。どんなことにしろ、世界から隔離されている自分では、良い結末を迎えることができないだろう。  そんな最悪を考えながらも、彼はこの状況からの脱出を思い立つことはなかった。今井はこの生活で充分と感じていた。  自分の生活に日の光はいらない。  自分の生活に他社との交流はいらない。  自分の生活には、狭い部屋と少しの食料があればいい。  この異常はそれを強制してくれる。現実の世界ではこんな限界の様な生活を送っていても期限を設けてくる。どんな生活であれ、働かなければ収入がなくやがて貯金が尽きる。社会に出ることは恐ろしいことだった。そこがいかに慈愛に満ちて明るい場所であったとしても、今井にとっては地獄であった。  そうであれば、やはりこの異常事態にも終点があるように思えた。何事にも終わりがあるのだ。もし、一生下降を続けたとしてもいずれ食料がなくなり飢え死ぬ。それもまた終点だ。  どのような終点であれ、まだこの生活でいられるのなら。楽園の中にいられるのであれば。それに越したことはない。朽ちるまで、楽園で過ごしたい。そうして、今井はまた怠惰の中に身を沈めていくのだ。
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