囚われ女海賊の選択

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 なんの変哲もない商船と見えた船は支払いを拒否し、話し合うために横付けしたシェイリーたちの船にいきなり多数の兵士が飛び移ってきたのだ。  そんな非常事態のまっただなかだというのに、クアイドはしんみりと言った。 「おまえは、実はおれの娘じゃない。昔、難破した船でひとりだけ助かった赤ん坊なんだ」 「はあ!?」  シェイリーがおもわずふりかえった瞬間、別の兵士が鎖網を投げてきた。  直後、シェイリーとクアイドは重い鎖網にからめとられた。  甲板に倒れたシェイリーは、すぐ横で同じように倒れたクアイドをにらみつけた。 「──親父が変なこと言うから! 親父のせいだよ!!」  古い傷跡が残る赤黒い顔のなか、クアイドはうるんだ目でうなずいた。 「親父じゃない、おれは親父じゃないんだシェイリー。そう呼んでくれるのはうれしいんだがな……」 「まだそんなこと言ってんの!? 悪いものでも食べたんじゃないの!?」  父と娘が噛みあわない会話をしているあいだにも、仲間たちが次々と囚われていく。  やがて剣戟(けんげき)の音と怒声が消え、海風とそれに揺れる索具(さくぐ)の音が船上を支配した。  自分たちに近づいてくる足音を聞きつけて、シェイリーは鎖網の下からきっとにらみつけた。  かつてクアイドの仲間だった海賊キャムレンが、薄ら笑いを浮かべて立っていた。
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