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20年前のあの日、蒸し暑い昼下がりの公園で私はあなたのことを好きになった。私は8歳、あなたはおそらく大学生くらいだったと思う。
このスーパーマーケットの駐車場で、当時私は母親の買い物が終わるのをぼんやり待っていた。すると後ろから肩を叩かれ振り返ると知らない男の人が立っていた。それがあなた。中肉中背で地味な服装。それに、か細い声。そんなあなたに促されスーパーの隣にある人気の無い公園まで歩いた。そしてそこの公衆トイレであなたに服を脱がされ悪戯された。私は汗だくになった。尋常ではないくらいに嫌な気持ちになった。夕食も喉を通らないくらい、一日中頭から離れなかった。でも気づいたら私は火照っていた。あの時のトイレの光景(壁に落書きが漢字やアルファベットで書いてあり当時の私には何と書いてあるのかわからなかった)やあなたに全身を触られた感覚、あなたの太い指、あなたの表情、それらを繰り返し思い出した。
それからというもの、母親と一緒にこのスーパーマーケットを訪れる度にあなたを探し回った。また公園に呼んでくれることを期待して。でもあなたが現れることはなかった。
それから10年が経ち私は高校生になった。周りの友人は思春期ということもあり同級生の男子や先輩との愛だの恋だの失恋だのを愉しんでいた。
けれど私はまだあなたを探していた。それでもあなたがあの場所に現れることはなく、私は満たされずにいた。
『もう一度あなたに満たされたい』
そんな自分に嘘をついて同級生の男子と付き合っていた。けれど私が満たされることはなかった。
そんなある日、あなたはスーパーマーケットに現れた。ひたすら店内を歩き回り、私には目もくれなかった。
30歳くらいのあなたは、少し皺ができたようにみえたけど、それでも私に悪戯した時のままの中肉中背に地味な服装だった。
もう私のことを忘れてしまったの?それともあの時の罪悪感を抱いて、私のことを忘れようとしているだけなの?
声をかける勇気が出ず私は呆然と立ち尽くしていた。するとあなたはお菓子コーナーに行き、一人でお菓子を見ていた5歳くらいの幼女の方へ近づいて何やら声をかけた。あなたは左手で幼女の長い髪を撫で、ゆっくりと肩の方に手を回した。そのあと右手で幼女の下半身を触ろうとしていた。私はその犯罪を止めようか、あなたの自由にさせてあげようか迷っていた。迷っている間、あなたの右手は幼女のスカートの中に吸い込まれようとしていた。そのときどこからか「ユカー。どこ行ったのー?」と女性の声が聞こえてきた。幼女は「ママー」と探し回りながらその女性の元へ駆け寄っていき何事もなく終わった。
私は心の底から安心した。それはあなたの犯罪が明るみにならずに済んだからではない。私があの幼女に嫉妬していたからだ。羨ましいと思っていたからだ。あなたが幼女に悪戯することができなかったからだ。もう少しあの様子を見ていたとしたら私は発狂して幼女を張り倒し馬乗りになって思い切り叩いていたかもしれない。
私はふと我に返り辺りを見回した。あなたが店を出ていくのが見えた。走って駐車場まで追いかけたけれどあなたはもうどこにもいなかった。
あの夏の景色が蘇る。
蒸し暑い昼下がりの駐車場からの景色。
木々の隙間から覗く公衆トイレ。
なぜこんなことになってしまったのだろう。
私は涙が止まらなかった。
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