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私の渾身の一撃で、彼は吹き飛びバルコニーの手すりに激突した。
「あっ…、ごめんなさい、つい……」
「くっ……いい一撃だ……」
王太子を張り飛ばすなんて、普通なら無礼討ちにされても文句を言えない暴挙なのに、彼は何故か河原で殴り合った不良のような清々しさを感じさせる表情を浮かべながら立ち上がる。
再び私の隣に来ると、何事もなかったかのように続けた。
「お前の行動はいつも私を驚かせてくれる。だが…何故止めた?私が何を言おうとしたか、わかっているのか?」
「えっ、ああ、ええと、私の祖国では戦いの前の求婚は、死亡フラグもとい縁起の悪いものだと言われていまして」
「……そうだったのか」
そうなのですと頷く。
彼も、死にたくはないだろう。
彼のルートに入ってしまったため、公的なものではないが王太子殿下のお気に入り的なポジションになってしまった私も、こんなところで彼が戦死したらものすごく気まずいのだ。祖国にも帰れないし…。
「つまり……私の気持ちを分かったうえで、死んでほしくないと……そういうことだな?」
「えっ?はあ、まあ、そういうことに……なりますかね?」
なんだか嬉しそうに聞かれて、思わず頷いた。
間違いは含まれていないが、また何かいらないフラグを立ててしまった感が。
「では、今宵は何も言うまい。その代わり、これを……」
彼は懐から、緻密な装飾の施されたケースに入った細長いものを取り出す。
またしても嫌な予感がして、受け取る前に聞いた。
「これは?」
「母の形見だ。これを私だと思って」
「お守り渡すのもダメーーーーーーーーーーっ!」
私はどこからともなく取り出したハリセンで、その整った顔を張り飛ばした。
前途多難。
……私の転生令嬢ライフは、まだ始まったばかりよ……。
To be continued……
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