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調査依頼
買い物帰りの主婦達の声が聞こえる。もうそんな時間か。ああ、今日が終わるんだ。今日も客が来なかった……。
御子柴探偵事務所の看板を出して2年。そこそこの事件を解決してそこそこの知名度と信頼はできたはずだ。しかしこのところメッキリ依頼が来ない。世の中が平和になったのか、はたまた猫を飼う家が少なくなったのか。いや、猫探しは本来の仕事ではない。それでもタバコ代にはなる。
シケモクって不味いんだよな。
そうは言ってもタバコを買う金も尽きた。俺は灰皿を掻き回し吸えそうな吸い殻を探した。
「こんにちは」
「!」
灰まみれの吸い殻を咥えた瞬間、事務所のドアが開いた。
「久し振り」
「なんだ、お前か」
幼馴染みの東山祐介だった。依頼者ではないと分かったので俺は遠慮なくタバコに火を点けた。
「珍しいな。どうした?」
「ゴンが探偵事務所始めたって聞いたから見に来たんだ」
「もう2年も前だぞ。でも開店祝いならまだ受け付けてるぜ」
「はは……」
東山は力なく笑った。
仕立ての良さそうなスーツなんか着てやがる。昔から成績が良くて生徒会長なんかもやったヤツだ。大学へ行ってどこかのデカい会社に入ったとは聞いていた。そこそこ出世はしているようだ。
「実は調べて欲しい事があるんだ」
「依頼か?」
「ああ……」
話しづらそうに東山は下を向いた。こういう時は大抵女だ。女性問題をこじらせた時の男の顔だ。
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