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「最悪その噂が真実だとしても、僕と結婚する時点で切れてると思っていたんだ」
「いや、そもそも何でそんな女と結婚したんだ?」
「社長の勧めの見合いだったんだ。結婚すれば将来は安泰。現に結婚してから異例の出世をした」
出世のためなら社長のお下がりでさえ貰うというのか。
「結婚してみて久美は社長の愛人なんかじゃないと思えた。見かけは美人だが男慣れしてなくて、純情を絵に描いたような女だった。家事も下手クソで危なっかしくて、でも僕の好物を必死で覚えて調理してくれる。慣れない手付きで毎日アイロンを掛けてくれる。僕が仕事で遅くなっても必ず起きていてくれる」
「ノロケは聞きたくない」
「いや、それほどまでに尽くしてくれるから僕も本気で久美を愛したんだ。だから子供が出来たと聞いた時は物凄く嬉しかった」
「じゃあ疑う必要なんかないじゃないか」
「これ見てくれよ」
スマホの待ち受け画面には美しい女性に抱かれた赤ん坊がいた。確かに両親どちらとも似ていない。
「こっちが社長だ」
東山は社報を机に置いた。表紙は社長であろう老人が胸を張って写っていた。
「うん……確かに似てはいるな」
「だろ? 目といい鼻といい口といい。似てるどころかそっくりだ。まさか久美が結婚してからも社長と密会してたなんて……僕は騙されてたんだ」
東山は社報をクシャクシャに握り潰した。
「証拠を掴んでくれ。社長から慰謝料たっぷり貰って離婚してやる」
「まだ子供小さいのにか?」
「息子だって社長の子供として育てば将来社長になれる。その方が子供のためだ。本当の両親の元で暮らした方がいい」
「でも社長には奥さんがいるんじゃないのか?」
「僕達が結婚してすぐに亡くなった。それに社長には娘しかいない。収まる所に収まるじゃないか」
強がっていても苦悩の色は隠せない。未練たっぷりの顔だ。
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