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「あの人のことを今でも好きでいるわけじゃない。だけど、どうしても認められないの。離婚した自分を。許せないのよ、なに一つまともに言い返せないまま、離婚届にサインをした私自身のことが」  あの人と暮らした二年間は、今でも私の心に深く刻まれ、消えることはない。刺青と同じだ。簡単には拭い去れない。きれいには消えてくれず、跡が残る。  結婚なんて、ただの契約だと思っていた。なにも期待せず、パートナーとの共同生活を穏やかに営んでいれば幸せで、きちんとお嫁に行けたという世間からの評価も得られる。私にとってはそれで十分だった。両親を喜ばすこともできた。  甘かった。結婚はゴールじゃない。一度結ばれてしまえば、あとのことはどうとでもなると思っていた。どうにもならなかった。 「向いてないの、たぶん、私。結婚に。自己中(ジコチュー)で、仕事も辞めたくなくて、自分の思いどおりに事が運ばないと納得できない。そりゃあつまらないよね、そんな女と一緒にいても。他人と上手に共同生活ができない人間なんだから。今になって気づいたところで、もう遅いけどさ」  ハズレくじ。私を形容するのにこれ以上の言葉はないだろう。封を切るまでは大いに期待できる外観で、いざ中を見るとただの空洞。そんな自分を認められないところも私らしい。外見ばかり取り繕って、中身の詰まっていない失敗作。  幼い頃も、思春期も、社会人になってからも、人間関係はうまくいっていると思っていた。それも幻想だったのだろう。私の幸福はいつだって、誰かの幸福を踏みつぶした上に築かれていた。周りの人たちが私にたくさん遠慮して、私が笑えるような環境をしつらえてきてくれたのだ。きっと私は、ずっと嫌われ者だった。私のことを今でも友達だと思ってくれている人が、この世界にいったい何人いるだろう。
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