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四人掛けダイニングセットの脇にたたずみ、黙って私の話を聞いてくれていた舎川くんがゆっくりと歩き出し、ソファに座る私の隣に静かに腰を下ろした。彼の重さで沈んだ分、私のいるほうの座面がわずかに浮く。
「映画みたいなものなんじゃないですか」
ついていないテレビの液晶をじっと見つめ、舎川くんはいつもどおりの穏やかな口調で言った。
「アタリかハズレかなんて、その人の価値観でしかないでしょ。誰かにとってはハズレでも、別の誰かにとっては大アタリってこともある。それだけのことじゃないですか。一緒ですよ、恋愛も映画も。ある種のギャンブルみたいなものっていうか」
ね、と言って、彼は私に笑いかけた。左手がすぅっと伸びてきて、前下がりのボブにしている私の髪を指で梳く。
すっかり男の顔をして笑う彼から視線をはずし、やっぱりこの人は私に似ているなと思う。思考の方向性が同じだ。映画をギャンブルととらえたり、うまくいかないこの世界をどこか冷めた目で見ていたり。
髪を撫でていた手が頭の後ろに添えられ、彼の顔が近づいてくる。寄せられた唇から伝わる熱に、私の唇は何度でも甘い痺れを覚え、境界線が曖昧になる。
楕円に開いた暗闇の中で、ねっとりと舌が絡み合う。彼は私だけを求め、私もまた、彼だけを感じながらそそがれる愛情に身をゆだねた。
二つの唇の間に距離ができる。互いに赤らんだ頬をして、彼は私を抱きしめた。
「一緒に、前に進みませんか」
耳もとでささやかれたその言葉に、私たちが同じであることをいよいよ確信させられた。
どうにもならない、できることなら切り捨ててしまいたい過去と現実を、一人でかかえて生きてきた。誰にすがることもなく、一人で背負う以外に選択肢を持とうとしなかった。
彼の恋人がバイク事故で亡くなった、直接のきっかけを私は知らない。聞かなくても、彼の腰に刻まれた小さな鷹がすべてを物語っている。
彼のために、私にできることがあるだろうか。寄り添い、隣を歩いていれば、深く傷ついた彼の心は救われるのか。
強い後悔を象った鷹に、あるいは羽を休められる場所を与えることは。
彼の背中に回した右手で、私は彼のTシャツを掴んだ。
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