山奥の旅館

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翌日の朝…硬いベッドで少し体がバキバキするが 目覚めは悪くない。 初日だし、気合入れていかないとなと思いながら スーツに着替えて旅館に向かった。 この旅館は360名収容可能なホテル旅館である。 古くは文豪が長期滞在して、執筆活動をしていたり、天皇陛下がお泊りになった部屋などもあり、 古めな客室から瀟洒な現代的な部屋もあり、部屋のグレードによって旧館、本館、新館と別れており、増築により繋がれた造りになっている。 事務室に入り、沢田支配人に挨拶をする。 「おはようございます!本日よりよろしくお願いします。」  「おお、元気やな、もう少ししたらみんな出勤してくるから紹介するよ。それまでそこにいたらいい。」 しばらくじっとしていると、続々と事務スタッフが集まってきていた。 「あー、みんないいか?」 手を叩きながら沢田支配人が声を掛ける。 「今日から働くことになった村瀬くんだ。東京からわざわざこんな山奥にやってきた奇特な人だ。みんなよろしく頼むね。」 どっと笑いがおこる。 その中で沢田支配人に促されて自己紹介することになった。 「お話があったように東京から来ました村瀬拓巳です。こんな自然豊かな環境で少し興奮しています。分からないことばかりだと思いますが、皆さん見捨てずよろしくお願い致します。」 拍手が起こり、皆さん口々によろしくね〜と声が上がった。 よかった。みんないい人ばかりのようだ。 「個々の自己紹介は省略するが、徐々に名前と顔を覚えて慣れてくれればいいから。」と沢田支配人がその場を締めた。 一応、旅行会社に対して旅館の良さを伝えたり、旅行のツアープランを作成したりする提案型の営業として採用されたのだが、まずは旅館を知ること、周辺環境を知ることが必要だということで、フロント業務に就くことになった。 そこで、フロント部に沢田支配人とともに早速行くことになったのだった。 「フロントは何人いらっしゃるんですか?」 「今は4人だな…」 「規模の割に少ないですね。」 「足りない時は儂か若女将もフォローするから。」 「おい、深月!新人くんだ、よろしく頼む!」 そう言って沢田支配人は奥に引っ込んでいった。 「君が村瀬くんね、今日からよろしく!」 とハスキーボイスが特徴的な深月さんが挨拶してくれた。 「今日はフロントリーダーの平山さんがいないので私が色々教えるから。」 「よろしくお願いします。」 「まずは、フロント業務の簡単な流れを説明するわね。」 淡々と分かりやすく説明してくれる深月さんは、仕事が出来そうなキャリアウーマンといった雰囲気を醸し出していた。 ひととおり説明を受けていたところ、自分より若い女性がやってきた。 「どなたですか?深月さん?」 「今日から働くことになった村瀬くんよ、こちらは山科さんね。」 「村瀬です。よろしくお願いします。」と挨拶をすると、 「山科です。よろしくお願いします。」と、どこか緊張した様子で山科さんが答えた。 見た目は華奢で可愛らしい女の子だった。 「この子、人見知りなのよ、フロントなのにね。」と笑う深月さん。   「あとはさっき話したフロントリーダーの平山と香山で全員ね。」 「ありがとうございます。」 「あとは山科さんに細かい業務のことは聞きながら覚えていってね。」と深月さんは笑った。 こうして、サバサバとしていてハスキーボイスで姉御肌タイプの深月さん、可愛らしいアイドル顔で大人しそうな山科さんとともに、仕事初日を過ごすことになった。
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