山奥の旅館

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山奥の旅館

「ふ〜!やっと着いた。」 東京から車を走らせ数時間… 山奥の渓谷沿い、温泉街の一角にある旅館に到着した。 「ここかぁ…思ったより大きいな。」 旅館というよりもホテルといった感じだ。 そう、私、村瀬拓己は明日からここで働くことになったのだ。 外観を眺めていると、若女将らしき女性が声を掛けてくれた。 「あなたが村瀬くん?私はこの旅館の若女将で、あなたを面接した社長の妻です。遠いところ疲れたでしょ?簡単に中で説明するから付いてきて?」 と促されるままに付いていった。 事務室のようなところで、老齢の男性が待っていた。 「君が村瀬くんね、私はここの支配人を任されている沢田です。明日からよろしく頼むね。分からないことがあればいつでも聞いてくれていいから。」 少し強面だが、優しそうな人だ。 「はい、ありがとうございます。お世話になります。よろしくお願い致します。」 その後、一通り旅館内の施設、部屋を案内され説明してもらった。 「今日は長距離の移動もあって疲れただろ?詳しいことは明日からゆっくり話すから温泉にでも入って後はゆっくり休んでいいから。」 そう言って沢田支配人は去っていった。 ここの温泉は無色透明、源泉100%の美肌の湯として知られている。 従業員も旅館の温泉を24時間無料で利用できるというのは嬉しいかぎりだ。 早速、私は温泉に向かった。 渓谷を見渡す眺望抜群の広々とした露天風呂…最高! 毎日入れるなんて、なんて役得なんだ。 すっかり温泉を満喫して、少し離れた従業員寮に向かった。 「え?ホントにここ?」 と思わず声が出てしまうくらい古く野暮ったいコンクリートの建物だった。 まあ、中がよければ……。 その期待は甘かった。 部屋は3畳1間でベッドは硬そうな木製の簡素な据付式。 そのせいか余計に部屋が狭く見える。 後はトイレと流し台、小さな押し入れ収納があるくらいで、半径2歩くらいで全て用が足りるくらいの狭さだった。 見たことはないが刑務所の中とそんな変わらないんじゃないかとすら思ってしまった。 こんな山奥じゃ娯楽もあったもんじゃないし、ただ寝るだけだしと自分を言い聞かせ、明日からの仕事に一抹の不安を感じつつも、疲れていたのであっという間に眠りにつくのだった。
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