センチメンタルな俺とネクタイ巻きおっさん

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 笑顔で耳を傾けていたおっさんが立ち上がる。当たり前だな、こんなヤバい男と絡んじまったって思っているだろう。俺もようやく情けないこと晒したなと思えて、抑えていた手をレジャーシートの上に置く。土のねっとりとした感覚がシート越しに伝わり、片手がひんやりとする。 「よっこらっせ」  革靴を履いて掛け声と共に立ち去っていくおっさんを見て、また1つ桜が嫌いな理由が増えたと苦笑いする俺。聞いてくれてありがとうの礼すら言えないなんて、営業どころか人として終わってる。  ブブブ・・・  レジャーシートに伏せたままのスマホが動く。緑のアイコンに表彰状を持ってピースサインを浮かべる田中(たなか)が映る。  一見、大人しそうな見た目だが、ダークブラウンのツーブロックが似合うタレ目で一重の田中。  彼は大きな声でゆっくり時間をかけて話す。時に聞いてほしい世間話を聞きながら、聞いてくれたお礼で契約を数多くしている1位の田中。 【桜写真は?】  頭上にカメラを向け写真を送ると、既読がつき文句があるスタンプを連打してくる。やれ、桜の咲き具合がイマイチだの。映えの角度はどこだのうるさい。 【変えて】  ラインの返事に舌打ちしそうになりながら、周囲を見る。レジャーシートを広げ寝ている人。昼間から騒いでいる若者に、家族連れどこももう埋まっている。 「伊賀くん」  俺はスマホを翻し既読スルーをしかけていた時、例のおっさんが、キンキンに冷えた飲み物を両手に持ちながら戻ってきた。 「呑もう」  見放されたとばかり思っていた。けど、おっさんは飲み物を取りに行っていただけだったんだ。 「はい。喜んで」
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