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桜が舞う季節はセンチメンタルになりやすい。出会いや別れは春だし、決まって桜の花びらが舞っている。俺は桜が嫌いだ。それなのに、桜の木の下で場所取りしてるんだから笑える。
「6時間もいなきゃかよ!!」
ひらひらと舞う桜を掴めたら幸せになるって聞いたことがある。片手を伸ばして手のひらに触れては、レジャーシートに落ちていく桜を見てため息を吐く。
「ため息つくと幸せ逃げるよ?」
声をかけれ顔を上げると、くたびれたスーツを着て、頭にネクタイを巻いているおっさんが、頬を赤らませて、どかっと座ってくる。
「おっさん、場所間違えてるんじゃね?」
最悪な酔っ払いだと思っていたが、片手に持っているのはノンアルコールビールだと気づく。俺と同じで花見の場所取りをしているおっさんの暇つぶし相手になったってわけか。
「じゃんけんで負けた?」
おっさんは初対面の俺に砕けた話し方で接してくる。膝歩きで近づいてきて、あぐらをするときにボキボキと骨が鳴る。俺は首を左右に振り、おっさんと話すため、本を反対側へと移動させる。
「俺、志願して場所取りしてるだけ。新人とか定年間近のおっさんの役割パターンが多いけど、おっさんは後者?」
「前者でも後者でもない。もちろんじゃんけんで負けたわけじゃない」
スーツ姿のおっさんだから同じ仲間だと思ってたのは俺か。じゃあ、おっさんはと聞く前におっさんの視線が積まれた本に向けられ話を変えられる。
「時間ならたっぷりある。おっさんで良ければ聞くよ?」
オールバックで四角い黒縁メガネをかけたおっさんは、たれ目の笑顔を向けていた。
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