赤い手袋

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「ねえ」  私は少女が驚いてしまわぬよう、なるべく優しく聞こえるように、声を細めた。泣いていた少女はゆっくりと振り返ると、戸惑いの顔で私を見つめる。 「……誰?」  少女は、訝しげな表情だった。それもそのはずだと、私は思う。だって、突然知らない人から声をかけられたら、誰だって驚くだろう。私はそれがわかっている。だから、少女の警戒心を解くように、視線を合わせてこう言った。 「大丈夫だよ。お姉ちゃん怖くないよ。だから、安心して?」 「……うん」  少女は私の言葉に、納得したように頷いた。そして、私の手元に目線を移すと、「あっ」と、小さく声を上げた。 「どうしたの?」  私は思わず首を傾げた。少女は恐る恐るといった様子で、私が持っているものを指差す。 「それ、リノの手袋……」 「あぁ……」  そうか。この赤い手袋は、この少女が落としたものだったのか。私はそう思いながら、その少女ーーリノちゃんーーに、手袋を手渡した。 「はい。散歩していたら、道に落ちていたの。でも早く見つかって良かったわ」 「……拾ってくれて、ありがとうございます」  リノちゃんは、私が返した手袋を大事そうに抱えながら、お礼を言ってくれた。そして、ペコペコと頭を下げてくる。  リノちゃんは、とても礼儀正しい子だと思った。小学三年生くらいにしては、良い意味でどこか大人びている。果たして、自分がリノちゃんと同じ歳の頃、こんな風にしっかりしていただろうか。私はそんなことを考えながら、リノちゃんに目を向けた。
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