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それは、夕暮れの時間に差し掛かった時のことだった。
私は、住宅街に落ちていたそれを拾う。それとは、毛糸で作られた赤い手袋のことだ。五本指ではなく、ぼっこ手袋のそれ。ぼっこ手袋というのは、親指だけが別れている形状の手袋だ。
その手袋は、大人の私にははめられないサイズのものだった。つまり、小さい。おそらくこれは、子供用のものだろう。
それならば、早く持ち主に返さなくては。私はそう思いながら、キョロキョロと辺りを見回す。するとどこからか、小さな声が聞こえたような気がした。
ーーシクシク。シクシク。
それは声というよりも、子供の泣き声のようだった。一体どこから、その泣き声が聞こえてきたのだろうか。私は手袋を持ったまま、真っ正面の角を左に曲がる。なんとなくそちらの方に、泣き声の正体がいるように感じたのだ。
そしてその予感は的中した。オレンジ色に染まった家が左右に連なる住宅街に、その子はいた。
ーーシクシク。シクシク。
その子は背後に私が立っていることには気づかずに泣き続けている。薄ピンクのコートに、白いマフラー。重たそうな赤いランドセルを背負っているその子は、小学三年生くらいに見えた。
私は今、実家を離れ、通勤している会社に近いマンションに暮らしている。今は、休みを利用して実家に帰ってきていた。
そして、ふいに懐かしいこの地を眺めようかと、ふらりと散歩をしてきた帰り道だったのだが……。
なんだか、目の前の少女を見ていると、狐につつまれたような感覚に陥ってくる。連なる家は幸福感に満ちているのに、目の前の少女は一人で泣いている。周りの家の住人は笑顔なのに、どうしてこんな小さい子が泣いているのか?
ーー放っておけない。
少女に既視感のようなものを感じた私は、赤い手袋を握り締めると、その小さい背中に声をかけた。
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