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 世界は一柱の樹によって支えられている。  極少数の者にしか認識できないそれを、人は『世界樹』と呼んで敬っている。『世界樹』は大地に根を張ると同時、世界中にその枝葉を伸ばし、力の循環を効率よくさせている。要所に『森』と呼ばれる『世界樹』と繋がる場所を設定し、そこから力を取り込み、あるいは大地の異変を修復している。『森』に異変があれば、その周辺は病んでいる可能性が高い。『森』が健康であれば、周辺の土や水、大気に至るまでが澄んでいる。  人々はその中で恩恵を受け、『森』と共に生きてきた。『森』が病むことにより、人々に壊滅的な打撃を与えた出来事も過去に幾つかある。  『世界樹』は世界を支えるためにあり、世界の調和を保つためにある。決して人のために存在しない『森』は、それ故時としてひどく人に残酷な仕打ちを強いる時がある。  いち早く『森』の異変を感じ取ることが重要であり、間違っても『森』が枯死することがないよう注視しなければならない。時に、人の手により『森』を保護し、治癒する必要もあった。  そうして出来上がったのが、東の森都ヴェルドジェーリュにある世界最高峰の研究機関、『シンクタンク・ユグラドラシル』である。彼らは世界に数百あるとされる『森』へと赴き、調査・保護、或いは治癒を目的としている。  決して生き物が住むことがない『森』に踏み込むことを許されるのは、特別を得た樹術師(じゅじゅつし)と呼ばれる者たちである。  世界でもごく僅かしかいない樹術師の一人として、彼、桂樹(けいじゅ)・ノブリスはその名を連ねていた。
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