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 『森』の近くに人が集まり、街が出来る。とは言え、その距離は近すぎることはない。『森』は生き物を寄せ付けず、その機嫌一つで周囲に多大なる影響を与える。どこの『森』でも、人が集う都市・街・村まで降りるのに徒歩二日、三日を要する。『森』は生き物を寄せ付けることをしないので、馬などで近くまで行くことも出来ない。移動手段は徒歩に限られていた。  桂樹のいる『森』からも、街まで徒歩二日ほどかかる。  『森』から出て、なだらかな緑の坂道を下って行くと湖がある。一番間近の街アルベの生活用水を担う湖だ。開けた窪地にできた湖は周囲の山々の雪解け水を蓄え、健康的な『森』のそばにあって澄んで美しい。山間にあるため、『森』から出てそれに臨むと、水面の向こうに美しい緑と人々が営む光が見える。花が一面に咲くことはないが、雪原にでもなればさぞ荘厳な景色が広がるだろう。  桂樹は湖の淵まで来ると、木の樹液でベタベタになった少年と自身の体を清めた。『森』の近くの湖は貴重なため、直接体を浸すことはしない。だが、湖は山の雪解け水も含んでいる。南の地方の比較的温かな季節とは言え、朝夕は冷える。慎重に体を拭った。  体を洗って改めて少年を見ると、ぞっとするほど美しい容貌をしていた。光を弾く銀糸の髪も、緋色の美しい瞳を閉じ込めた瞼を彩る細やかな睫毛も、しみ一つない肌理細やかな透き通るような白い肌も、芸術の粋を極めて作り上げられたような美を有していた。  桂樹は一人だけこれと同じような美を有する人物を知っているが、少年を見た時の衝撃は比べものにならないほどだった。  切れ長の決して大きくない群青の瞳を、これ以上ないほど大きくさせて彼に見入った。  我に返ったのは、吹き抜けた風が冷えた体を思い出させたからだ。  そのままにしておくことも出来ないので、桂樹は自分の服を着せ、火を起こして少年を抱えた。冷たい水で体を清めたため、二人ともすっかり冷え切っている。  火に当たり、マントにくるまって熱を与えるように少年の薄い体を抱きしめる。  内側からお互いの熱が絡み合うと、想定外の出来事で疲弊していた桂樹の瞼がとろりと重くなった。  誘い込まれるように落ちていく意識の端で、鳥の歌声が聞こえた。
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