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 雛菊が還って来た。『鳥』としてではなく、愛しい男と共に歩んでいけるだけの時を持って。そしてそれは、緋桐にも一条の光をもたらす。  二年ぶりの再会に寄り添う二人と別れ、ふわふわと浮くような足取りで帰って来た。 「……っん……はっ、ぁ……桂樹っ……」  言いようのない高揚感に浮かされ、帰り着くなりお互いの熱を奪い合うように口付けた。深く舌を絡め貪り合い、性急な手付きで衣服に手をかける。雪崩れ込むように寝台に倒れ込み、また深く唇を合わせ、足を絡める。  緋桐の白磁の肌を滑る桂樹の硬い手はいつになく性急で、見下ろす群青の瞳が強烈な熱を孕んで緋桐を煽る。 「緋桐っ……」  耳朶を食み囁かれる声は低く甘く、ぞくりと緋桐の腰を震わせる。すでに立ち上がったものは痛いほど起立し、桂樹の熱い手が触れるだけであえかな声が漏れる。 「あぁっ、ぁん……ふっ、……あっ、……ふぁっ……」  透かすような肌は上気して薔薇色に染まり、薄い胸に主張する突起が桂樹を誘う。それに吸い付くように舌先で転がしながら、すでにしとどに濡れる緋桐自身をしごく。 「あっ、ひっあぁぁんっ!」  はぁっと甘やかな吐息を漏らし、緋桐の体からくたりと力が抜ける。細やかな光を放つ銀糸の髪が乱れ、快感に蕩ける緋色の瞳が淫靡に桂樹を映す。白く細い腕が怠そうに桂樹に伸ばされ、請うように赤い唇が開く。 「桂樹……」  声そのものに壮絶な色香を纏い、緋桐は全身で桂樹を誘う。緋桐の吐き出したそれで濡れた桂樹の手は、背中を撫でるように辿って秘孔に辿り着く。慎重に奥を探る手は優しく、一本二本と増やされていく指は逆にもどかしくさえあった。くちゅりと濡れた音さえ欲を煽り、早く早くと強請るように緋桐の腰が揺れる。 「……んっ……桂、樹……も、や、……はぁ、あぁぁんっ……」 「はっぁ、っ……」  ぎゅーっと締め付けた緋桐に桂樹の精悍な顔が苦しそうに歪む。汗ばんだ額にかかる黒髪から覗く群青色が、理性を失ったようにギラギラとしている。  上気した日に焼けた肌に手を伸ばし、緋桐はその理性を瓦解させるために耳元で囁く。 「きて、けいじゅ…」 「っ……!」  ずるり抜けた指の感覚に背筋を震わせ喘ぐも、すぐに圧倒的な熱量が押し入ってくる。 「あぁっ! あぁっ、あんっひっああっ!」  一際高く甘く鳴いた声に、桂樹がぐっと腰を進める。ガツガツと音がするほど激しい抽挿に、緋桐のあえかな声が響く。耳を犯すやらしく濡れた音にも身を震わせ、お互いを貪り合うように抱き合った。 「ひっん、あっあぁっあぁんっ!」 「っはぁ、くっ……!」  最奥を穿った桂樹にぎゅっと奥が痙攣し、次の瞬間熱いものが中で弾けた。達した体がびくびくとして、蕩けた顔が桂樹の前に惜しげもなく晒される。誰にも知られることがない淫靡で蠱惑的な色を見せる緋桐に、桂樹は肩で大きく息をしたまま手を伸ばす。撫でるように上気した頬に触れれば、それだけでふるりと体を震わせる。 「ずっと、待っている。何年かかっても」  快感に喘ぐ焦点のぼんやりとした緋色に、祈るように囁く。  何年かの後、緋桐が『世界樹の鳥』としての任を終える。その別離だけは避けられない。でも緋桐は再び桂樹の元に還って来てくれるから。それが何年でも、何十年でも、ずっと待っている。  神に誓う宣誓に、緋桐が桂樹の手に頬を寄せて微笑む。快感に蕩ける淫靡な緋色に、清冽な無垢さを滲ませる笑みだった。 「うん、絶対に、桂樹のところに還ってくる。俺の居場所は、ここだから……」  手を握り、額を合わせて瞳を閉じる。 「還ってきたら、一緒に旅に出よう」 「……うん! 約束だから!」
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