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見渡す限り、イルミネーションが煌めいていた。街の中心をぶちぬくように続く公園の1丁目から6丁目の間に、それぞれテーマの違うイルミネーションオブジェが置かれる、我が街における冬の恒例イベントだ。
仲睦まじく歩く人混みの中には、当然カップルだけではなく家族連れなんかもいるわけだけど、あたしからすれば今はそれらも含めて全てが万死に値すると思うくらい、この世界に絶望していた。きっとあたしがババアになる頃には年金制度が木っ端微塵に崩壊して、日本全国どこに出かけても駅前の風景は全部同じ見た目のビル街になり、噛んだだけでフランス料理のフルコースが順番に楽しめるガムとかが開発されてそもそも外出する必要すらなくなるはずである。最後のは子供の頃に映画で観たやつだ。
その調子で、自分にとって都合のいい言葉だけをかけてくれて本物の人間と同じように温もりをくれるAI搭載アンドロイドを、アップルとかトヨタとかが作ってほしい。そうしたら、今のあたしみたいな侘しい思いをするかもしれなかった未来の子供達を助けることにならないか。
ならないだろうな。
だいたい自分が死んだあとの地球がどうなろうと構わないし、なんなら今ここで世界が終わったとしてもさほど後悔はしない。でも終わらせるなら、今すぐ、というのが条件だ。時間が経って「やっぱもうどうでもいいや」とか「あんな男、むしろこっちから振ってやればよかった」とか「友達って本当に財産だよね。あたしもみんなが困ったときは助けてあげたいな★」みたいな、脳味噌がピザチーズみたくトロけきったことをSNSへ書き込む前に。いま感じている内臓が焼け爛れるような熱さを忘れて、気持ちがすっかり落ち着いてしまう前に。このままいくとやがて数十年後に訪れる「孤独」という名の辛さを(あーあ、やっちゃったよ)と諦めつつ受け入れてしまう前に。
スマホのディスプレイ側を自分たちに向けながら、イルミネーションを背景に写真へ収まるカップルたちを横目に、あたしは報道陣を無視しながら議場に入る政治家みたいに、会場内をずんずん突き進む。どうでもいいけど、ここのイルミネーションには「恋人同士で観ると別れる」という噂があるらしいが、果たして本当だろうか。だったらなぜあたしたちは、ここに足を運ぶよりも先に別れてしまったのだろう。おかしいじゃん。最寄り駅にすら辿り着いてないのに別れたんだよ? 今頃は二人でイルミネーションを眺めながら「あんなの非リア充の放つ僻みが混ざった嘘っぱちだよね。うちらでただの迷信だって証明してやろうよ」とか言っちゃって、ちょっとイイお値段のディナーを食べて、最終的にはデザートとしてお互いのことを美味しくいただいて……ってもうアホみたいというかアホだろただの。死ねばいいのに。今すぐ公園の端っこにあるあの鉄塔の上から落っこちて死んでほしい。おまえに言ってんだよおまえ、あたし。
でも大真面目にこんなことを妄想していたのも事実だ。少なくとも昨日の夜から、今日、12月24日未明までの間は。
クリスマスソングは雑音。ちらちら舞う細雪は埃。そしてシャンシャン高い音で鳴るベルは、警報。一般的に認知されているあたたかな幸せたちが、不幸せな存在を世界の端っこに寄せて、食い散らかしたチキンの骨やケーキの包み紙、シャンメリーの空き瓶と一緒に捨てようとしてくるアラート。時刻はまもなく19時を回る。マイナスに転じた気温とともに、身を裂くような孤独感がもうすぐきっと、来る。
逃げないと。
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