あの日の出会いを、僕はまだ覚えている

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◇ 「牧田さーん、お入りください」 看護師さんに呼ばれて牧田くんを抱えながら診察室へ入る。 もしも、もしも救急医が海生くんだったら奇跡としか言いようがない。鼓動が速くなる。 「こんにちは。どうぞ」 柔らかい男性の声。 牧田くんを椅子に座らせ、私は横に立つ。 デスクには先ほどのレントゲンが表示されていた。 牧田くんの対面に座るのは救急医の天早先生。若くて爽やかでとても優しい雰囲気の医師。清潔感のある白衣が好印象。 見た目だけでは海生くんかわからなかった。そりゃそうだ、私は海生くんにあの日しか会っていないのだから。それにお互い中学一年になる頃だったのだ。顔も体も声も成長していて分かるわけがない。 だけど――。 海生くんな気がした。 何が、と問われれば困るけれど、強いて言うならまとう雰囲気とでも言おうか。 どうしても確認したくて、私は天早先生の胸元に揺れるネームプレートを凝視する。 もうちょっと……もうちょっとで見えそうなんだけど。 ああ、もう、何で揺れるの。 こっち向きなさいよ。 「――レントゲンを見た限りでは骨に異常は見られませんでした。今日は応急処置となりますが、もし酷くなるようならまた来るか月曜にかかりつけ医にみせてください」 「だって、先生。おーい、神田先生ぇ~」 牧田くんに呼ばれてはっと我に返る。 「あ、わかりました。ありがとうございます。ほら立てる?」 牧田くんの脇を抱え込み立たせる。 天早先生が海生くんかもしれないと思いつつも、生徒の手前声をかけることができない。というか勇気が出なかった。 それに、今から牧田くんの親御さんへの連絡もしなくては行けないし、学校にも連絡しなくてはいけない。やることがたくさんだ。
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