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それから結局海生くんかどうかを確認することもなく、目の前の処理に追われた。
牧田くんも無事に親御さんに迎えに来てもらい、私は状況を説明しつつもひたすら謝り倒した。悪いのはふざけていた男子たちだけど、顧問として注意が行き届かなかったから、それは反省だ。
学校への連絡もようやく終わったころにはぐったりして、病院のロビーにあるソファに身を預けた。
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
社会人四年目、なかなかハードな体験をしたと思う。
今から学校に戻って報告書を書いて……などと憂鬱なことを考えていると、「神田魚月さん」と呼ばれ顔を上げた。
「……海生くん?」
目の前には天早先生。
咄嗟に海生くんと呟いてしまって慌てる。
けれど彼も、「やっぱりあの魚月ちゃんなんだね」と爽やかに笑った。
瞬間、眩しすぎて目が眩みそうになった。
出会ったときの海生くんの顔が一気によみがえったからだ。
「……どうして」
「はい、これ。落としたでしょ」
目の前に差し出されるカードケースのついたネックストラップ。んんっとよく見れば、私の名前がしっかりと書いてある身分証だ。
「わわっ、やばっ!」
慌てて自分の首元を見ればいつも学校にいるときに首から提げている身分証がない。危うく身分証紛失という始末書まで書くところだった。
危ない危ない、助かった。
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