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ほんとう/は/にがい/くちびる/の/はなし
最近の私は、隣の席の工藤千里のことで頭がいっぱいだ。
いや、それだと語弊があるな。
正確に言えば、工藤千里が身に纏っている香水のことで、だ。
彼女はクラスメイトだけど、あまり話したことはない。先月の席替えで隣の席になったものの、私たちが友達になることは、この先きっとないだろう。
私は本当にごく普通の、平凡な女子高生だ。染めてない黒髪のセミロングに、軽めのメイク。おとなしめのグループに属し、学校帰りは地元のショッピングセンターで過ごすのが定番だ。
対する工藤千里は、綺麗なウェーブを描くライトブラウンのロングヘアに、丁寧に作り込んだと思われるメイクで華やかな外見だ。口数は少ないけれど、私みたいなおとなしい系の子とは違って、どこか落ち着いた、気だるい雰囲気がある。大人っぽいグループで静かに談笑していたり、一人で爪を磨いていたり、綺麗な表紙の本を読んだりしていることが多い。
まあ、私とは住む世界が違う人間ってこと。
そんな工藤千里が、最近香水を付けてくるようになった。
隣の席だから、その仄かな香りがこちらまで漂ってくる。
ナッツのような甘い香りに、上品な花の香りが混ざっているような感じ。甘いだけじゃなくて、ツンと澄ましたところがあるような、誇り高いお嬢様みたいな香りだ。可愛い顔してクールな工藤千里にぴったりだと思う。
問題は、私がその香りをとても気に入ってしまったということで…。
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