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心地よい眠りは、目覚ましのアラームにより遮られ、私は永い眠りから目を覚ます。
今は何時かしら?と、日付と時刻を確認するも特に問題はない。
起床時間は予定通り、早くも遅くもない。
あくびをしながらゆっくりと立ち上がり、手足や首を軽くストレッチしても、異常はみられない。
身体はすこぶる健康そのもの。
大きく体を伸ばしながらそのままの足で、電子端末に届いた通達を確認する。
早速、衛生局からのメッセージが。
『おはようございます。目覚の調子はいかがでしょう? 起床1時間以内にヘルスチェックを実施して下さい』
面倒ではあるが、永い眠りから覚めた後は最寄りの衛生所にむかい、健康診断を受けなくてはならない。
それとは別の新規メッセージが1通。
受信日は13年前。
タイトルは『突然のメール 失礼します』
宛名には、知らない男性の名。
心当たりが無いと、いぶかしみながらも、私はそれを再生する。
端末から投影されたメッセージ映像は、私の前で立体映像として再生される。
そこに立ったのは、私よりも数十センチ背の高い、細身の若い男性。ブロンドヘアと蒼い瞳をもつ好青年。
『はじめまして。突然の挨拶で申し訳ありません。実は君が眠っている間に、君の所属している食品管理局の活動記録を拝見させていただきました。
そこでの君の姿に僕は一目惚れしてしまいました。
出来れば直接お会いして、食事でもしながらお話でもと思いましたが、君が目覚めるのはだいぶ先なようで……
残念ながら僕もこれから63年間の凍眠活動へと移行してしまいます。
もしよろしければ、僕とお付き合いしていただけませんでしょうか? ぜひ検討してください。僕の詳細なプロフィールを添付しておきます。
もし、すぐにでも僕と会いたい場合は、管理局に問い合わせ、僕のことを起こしてくれてもかまいません。
次に僕が目覚める時には、目の前に君の姿が見えることを願っています』
そうメッセージを伝え終わり、映像は消える。
ここは巨大移民宇宙船内。
地球からはるか彼方の惑星を目指し、今も何十光年先の旅を続ける。
ここで私たち人間は子を産み、育て、そして死んでいく。
この営みを続けるにあたり、計画的に私たちはコールドスリープを繰り返し、恒久的な宇宙船の航行を可能にしていた。
そう……それで、
私は今さっき、35年という凍眠から目覚めたばかりなのだ。
これは私への告白のラブレターとでもいうのだろうか?
添付されたプロフィールを見ると、彼の生体年齢は28歳で……技術局所属で……
なるほどね。
彼が凍眠したのが13年前で、彼が目覚める予定日は50年後。
なら今から私も再び凍眠しなくては、私だけお婆さんとなり歳の差カップルになってしまうわ。
早めに管理局に問い合わせて、次の凍眠予定を変更してもらわなくては。
でも、今の私の生体年齢は23歳……
せっかく目覚めたんだし、あと2年は遊べるかも。その間にいい人が見つかれば、そのままカップルになればいいし。
いなければ、彼が目覚める50年後まで凍眠すればいいだけのこと。
いや……もしくは90年後に目覚めて、次の世代の若い男と結ばれるのも悪くはないわね。
とりあえず、せっかく久しぶりに目覚めたんですから、しばらくは派手に遊ばなくっちゃ!
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