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「本当に何も覚えていらっしゃらないのですね。私の名前はシャーネンミュです。いつも、リーフレットお嬢様の身の回りを手伝っています、」
「じゃあ、ミュで!!」
「え?困ります。」
女性は目を大きくさせながらあたしを見る。
確かに馴れ馴れしいよね。
ちょっとやりすぎたかもしれない。
落ち込んでしまったあたしに女性は小さく呟いた。
「二人だけなら構いません。」
その後、ミュと呼ばれる女性は、他の用事があるらしく、これまた丁寧にお辞儀をして部屋を出ていってしまった。
ゆっくりと身体を起こしたあたしは、ひとまわり部屋を見渡す。
水無月結衣として住んでいた場所よりも遥かに豪華だ。
綺麗に磨いたフローリング?や、一人部屋にしてはあまりにも広い部屋。
高さのある机に椅子が置かれてあり、眩しいくらいに高級感溢れている。
ぬいぐるみとかはさすがに置いてはいないよね。
勉強机らしい机には、沢山の本が並べて置かれてある。
どういうのを読んでいるんだろう。
あ、そういえば年齢を聞くのを忘れてしまった。
立ち上がったあたしは、勉強机に置かれてある本を手に取る。
゛花嫁修業によるマナーと教養゛
゛この世界でのあらゆる情報論゛
゛吸血界と他の種族との交流について゛
どれもこれも難しい文字ばかり書いてある。
そういえば、あたしは人間で日本人なのに、どうして読めるの?
確か、あの男は堪能な英語を流暢のように話していた。
つまり、この世界もそういう事よね。
伝わるのは、どうなっているの。
あたしが、そのリーフレットになっているからなのかもしれないけど。
さて、どうやったら元の世界へ戻れるんだろう。
ま、あの男は心配しないだろうけど。
ふと、何気なく視線をある方へ向ける。
「…………え。」
それは、あの男から散々言われていた封印の剣。
紅い色をした鞘が微かに動いている。
カタカタと音を鳴らしながら、あたしへと飛んでくる。
まるで意思があるように。
思わず両手で掴んだ剣は、先程よりも熱くて更に深い色へと変わっていく。
重い訳では無いが存在感があまりにもはっきりしている不思議な剣。
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