仮想図書館の司書

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 タブレットに示された住所を辿り、まほろ町の緩やかな坂を上っていく。豊かな森林に囲まれ、高台からは都市部の街並みが一望できるのどかな場所だ。  一方通行の細い道路を歩いていくと、煤けた赤煉瓦作りの洋館が見えてきた。 「ここだな」  重い門扉(もんぴ)を手で押すと、ギイという蝶番(ちょうつがい)の錆びた音がした。  門扉には花模様の彫金細工が施されていて、御伽の国に迷い込んだような錯覚に陥る。屋敷まで続く石畳を歩くとすぐ横にもみじの木々が並び、芝の緑に妖精が戯れるかのような木陰を落としていた。  屋敷の扉の横に設置されたインターフォンを見つけて、やっとここが現実であることを思い出す。  インターフォンの呼び出しボタンを押すと、介護人形がモニタに現れた。 「今日から鷹山さんのお世話をさせていただく如月と申します」 『如月様、お待ちしておりました。お入りください』人と変わらない流暢な発音だ。 「お邪魔します」  カチャリと開錠の音がしたので、扉を開けて中を覗き込むと、昔懐かしい振り子時計が壁に掛かっているのが見えた。コチコチと心地の良い音が耳をくすぐった。  介護人形の後について板張りの廊下を歩いていくと、すでに開かれていた部屋の扉の先で、カーテンが揺れているのが見えた。  部屋に入るとベッドに腰掛ける女性の白髪が、窓の隙間からそよぐ風になびいていた。楽しげに外を観察する彼女の姿に、少女を思わせるようなあどけなさを感じた。  こちらの気配に気づくと、にこりと柔らかい笑みを私に向けてくれた。 「あら、いらっしゃい」  深い青みのかかった瞳、ハーフだろうか。 「はじめまして、今日からお世話をさせていただきます如月と申します」 「如月さん……? ああ、よろしくね」 「この椅子、よろしいですか?」 「はい、お掛けになって」  部屋にあった椅子をベッドのすぐ横に移すとそこに腰掛け、同じように外を眺めてみた。 「もみじの並木がとても綺麗ですね」 「……ええ、もみじは季節の移り変わりで(にしき)色に変化するから、一年中見ていても飽きないの」  高齢とは思えないとても丁寧な口調。そしてどこかで聞いたことがあるような懐かしい声色(こわね)
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