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「これは作者であるソフィア氏が幼少の頃に体験した夢を物語にしたものですね。難病で苦しんでいた彼女が一命を取り留めた時の思い出を描いた作品です」
カエデさんが『アルルの時報船』について解説してくれる。
「彼女は現実に戻りたかったのでしょうか」
「どうでしょう、夢の中では自由に動けるから、それでもよかったのかもしれないけど。でももう一度生きる機会を得た彼女は、現実の世界でも自分にできることはないかを考え始めたの」
「それが物語を描くということだったのですか?」
「ええ、現実にいながら夢の世界を体験できる仮想小説——ヴァベルを発明しました」
「ヴァベルを考え出したのがソフィアさんだったとは! この物語にすごく惹かれる理由はそこにあったのですね。でもソフィアさんが有名ではないのが不思議です」
「実はこの作品は、初めて公開されたもので彼女の処女作なんです。彼女はヴァベルを発明してからは公開される作品の読想に専念していたから、自分の作品を世に出すことは控えていました」
さすが司書であるカエデさん、誰も知らないヴァベルの歴史についても、とてもお詳しい。
「ありがとうございます、世界で一番最初に創られたヴァベルであるということを知りました。私もこんなヴァベルが描けたら、いいなあ」
「あら、如月さんもヴァベルを?」
カエデさんに秘密にしていたことを思わず口にしてしまった。
「あ、はい、実は私もファンタジストを目指していまして……」
「そうですか、ぜひ協会メンバーになって、作品を公開してくださいね」
「その日が訪れたら、まず最初にカエデさんに読想していただきたいです」
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