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星座を模った光芒が描かれる夜空の下、情報の大海原から打ち寄せる格子模様のさざ波が波打際を虹色に染め上げる。
ほんのり淡い光の帯がその波から伸びてきて、砂浜を蛇行しながら私のいる巨大な帆船の造形が施された建物へと進んでくる様子が窺えた。
その帯は帆船から垂れ下がる錨に繋がれた鎖を辿りながら、船内へと染み渡っていくようだった。
甲板にある手すりを両手で握りながら、身を乗り出してその様子を眺めていると、コツコツと誰かが近づいてくる靴音が聞こえた。
「新刊が到着したようですね。どんな夢と冒険を運んできてくれたでしょう。今日もいらしていたんですね……。何かご所望のヴァベルがありましたら、お探しいたしますよ」
声をかけられ、横に顔を向けると司書のカエデさんが佇んでいた。
私は彼女に会えた喜びと照れくさい気持ちを隠しながら、落ち着いた表情を装って、おもむろに語りかけた。
「この図書館の展望デッキから望む風景は、いつ見ても幻想的で心を惹きつけられます。この景観設計もカエデさんのお仕事なのですか?」
「はい、読想を楽しむための最高の環境をご用意するのも、私ども司書の仕事ですから」
手を合わせて、にこりと優しく微笑みかけるカエデさんを私は直視することができず、裾濃の光彩を放つ波に視線を逸らした。
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