13人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
季節は冬から春へと移った。
三月の頃だった。
新しい学年を迎える前に俺たちの両親の離婚が決定した。
俺と卯月が絆を結んでいく向こう側で両親たちの綻びは大きくなっていたらしい。
穏やかな話し合いのうえ、円満離婚という形で新しい家族生活は幕を閉じた。
「今日からまた他人だね」
学校の廊下ですれ違う中、彼女が俺に声をかけた。
「少しの間だったけど楽しかった。ありがとう」
感謝を告げる卯月だが、その声は以前の冷たいものに戻っていた。
「何か困ったことあったら声かけろよ」
何か声をかけなければと思った。
本当に、このまま卯月との関係も繋がりも綺麗に消えてしまいそうだった。
「もう片瀬には関係ないよ。私のことなんて」
でも、俺は受け取った。
彼女が渡したバレンタインのチョコを。
卯月の気持ちを。
「! 片瀬?」
俺は卯月の腕を掴んだ。
離れないように、しっかりと。
「なあ。俺たちってこんなんで離れる関係だった?」
「え……?」
「お前は親たちの離婚とかバレンタインとか何かしらで気持ちを区切ろうとも、俺がお前を手放す理由にはなってないよな」
「何言って……」
「だからーつまり」
ハッピーホワイトデー!!
鞄に詰め込んであったあめ玉を束ねたブーケを彼女の前に突きつける。
「好きです。これからも俺の側に、かけがえのない存在でいてください!」
ブーケを渡す手は震えていた。
頭を下げすぎてその先の彼女がどういう顔をしているかわからない。
今、卯月はどんな顔をしてる?
ぎゅっと目を瞑ったその時、
「ふっ。あははっ」
春の訪れを思わせる軽やかで温かい声だった。
「悠樹は本当に退屈しないね」
降ってきた卯月の笑い声に俺は嬉しい気持ちでたまらなくなった。
窓からそよ風と共に桜の花びらが舞い込んだ。
淡い桜の香りが、笑い合う俺たちを祝福するかのようにふんわりと包み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!