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第18話 最終話
Sweet Day ー 2
たどたどしい指先で、パジャマのボタンを外す彼の視線が、やけに真剣で緊張しているようにも見えた。そして彼はボタンを外し終えると、そのまま俺を押し倒した。
「やっぱり・・・」そう言って、手を止め言葉を止めた彼に、俺は思わず動揺した。
(やっぱりって・・・男の身体じゃ無理とか・・・?)
そんな不安を他所に、彼は「先生の身体、綺麗・・・想像以上・・・」とうっとりしたような顔をして、変態じみた事を言った。
「想像以上って・・・何を想像してたんですか?」
「何って、先生の裸に決まってるじゃないですか」と、彼はさも当たり前の事のように答えると、ズボンを下ろし始めた。すると、驚いたように大きな声で彼は言う。
「せ、先生?!い、いつもこんな・・・こんな、えっちな下着を穿いてるんですか?!」
顔を真っ赤にしてる割りに、視線がそこに集中しているのが解る。
(あ〜刺激が強過ぎたか?ていうか、そんなに見られると、俺も恥ずかしくなるじゃん)
「いつもは穿きませんよ。今日はその・・・特別というか・・・」
「先生もシたいって思ってた?」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
俺はボソボソと言うと起き上がって、今度は俺が彼を押し倒して、彼のチンコを咥えて動かし始めた。
(ホント大きいな・・・でもコレで早く奥まで突いて欲しい)と、ムズムズするアナルを弄りたくなった。すると、彼が突拍子もない事を言い出した。
「ん"・・・ねぇ先生、俺もシたいです。お尻こっちに向けて下さい」
「えっ、でも・・・」
「欲しいんでしょ?」と言われて、ドキッとした。見透かされてる気がした。
(今まで散々、遊んできておいて。これ以上の事だってヤってきたのに、なんだよこれ・・・)と、俺は柄にもなく恥ずかしいと思った。
恥ずかしいとは思ったが、早く欲しいという気持ちが勝って、俺はおずおずと尻を彼の方に向けた。すると彼は、何の躊躇いもなく俺のアナルを舐め始めた。
「ちょ、何してるんですか。そんな事しなくていいです」
「え、嫌です。俺もシたい・・・先生を気持ち良くしたいんです。先生も続けて?」
(萎えないどころか、やる気満々なのは嬉しいけど、これが彼の本性・・・いや、これはもう本能だろ。理性があるようで、ないような・・・ほぼ、本能に近いな)
そう思いながら俺も、彼を気持ち良くさせる事に集中しようとした。なのに、彼の指がゆっくり挿入ってきた途端、身体が痺れるようにビクッと反応してしまった。
「ねぇ、先生。ここって、こんなに柔らかいものなんですか?それともさっき、先生が弄ってたから?」
そう言いつつも、彼は指を止める気はないらしく、寧ろ何かを探るように動かし続ける。
「それもありますけど、実はその・・・お風呂に入った時に準備したんです。だから・・・あ、んっ・・・」
「先生の気持ち良い所、ここですか?」
「あ"っ・・・そこ・・・」
恥ずかしくはあったが、いつもとは違う気持ち良さに、素直に言葉にした。何だか解らないが、今までのセックスとはまるで違う気がした。
(な、んだこれ・・・やってる事は同じなのに、しかもまだ、指が挿入っただけ・・・なのに、コレ挿れられたらどうなるんだろ・・・)
「先生、指増やしますよ」と、彼はそう言うなり指を増やして、良い所ばかりを執拗に責めてくる。
その刺激に耐えられなくなって、俺は彼のチンコから口を離して「も、無理・・・」と、自分でも解るくらい情けない声で言った。
「イきそうですか?」と言う彼に、俺は無言で頷いてから「本條さんのコレ、早く挿れて下さい」と、強請るように言った。
「まだダメです。先に指だけでイって?」
彼はそんな意地悪な事を言いながら、緩急を付けて指を動かした。
「そん、な・・・待っ・・・あっ、ん"ん"っ・・・イク・・・」
(指だけでイかされたとか初めてなんだけど。理性が飛んだ、本能剥き出しの本條さんか・・・これが本当の彼の素顔)
気持ち良さに身体が勝手にビクビクする。呼吸が乱れているのが、自分でも解る。
「凄いですよ先生。指がちぎれそうなくらい、締まって吸い付いてきます」
「言わないでください。というか・・・そういうの、何処で覚えてきたんですか?」
「色々見たりして勉強しました」
何を見たのか、敢えて聞かない事にした。だが、自然とこういう事が出来たり言えるのは、飲み込みが早いという事だろう。
(あ、俺がそうさせてるのか?それならそれで嬉しいけど・・・自惚れかな)
「先生、もう挿れてもいい?」と言った彼の顔は、どこか野性味を帯びていて、早く俺が欲しいと訴えているようだった。
俺が無言で頷くと、彼のソレが中に挿入ってきた。
「ん"っ、はぁっ・・・あ"ぁ・・・」
(な・・・なんか変な感じ。痛いような苦しいような・・・でも、それ以上に目の前がチカチカする・・・)
「痛いですか?」
「違っ、なんか変で・・・」
「抜きますか?」
「嫌、抜かないで。あの、大丈夫ですから・・・」
「じゃあ、ゆっくりしますね」
その言葉通り、彼はゆっくりと動いてくれた。だがそれが逆に生々しく、腹の中で這うように、奥へ奥へと挿入って行くのが解る。
「はぁ・・・先生の中、熱いですね。あと少しで全部、挿入りますからね」
「ぅんっ・・・本條さん」
「どうしました?」
「もう大丈夫なので、本條さんの好きに動いていいですよ」
「本当に?」と、まだ少し心配そうな顔をして、彼が聞いてくる。
「はい。それに俺だって、本條さんにも気持ち良くなって欲しいです。なので、本條さんのやりたいようにやって下さい」
「そんな事言われても・・・加減が解らないから、きっと優しく出来なくなりますよ?」
「沢山欲しがってくれる方が嬉しいです」
「も〜、そうやってすぐ甘やかすんだから」
そう言って少し膨れっ面をしながらも、その目はまるで、獲物を仕留める野生動物のようだった。
「なら、遠慮なく・・・」
そう言うなり、彼は一気に奥へと挿れてきた。その圧迫感に、一瞬息が止まった。
「ぐっ・・・」
「先生?大丈夫ですか?」
「はっ、はぁ、はぁっ・・・凄い、こんな奥まで・・・」
「全部、挿入りましたよ。先生・・・ちょっとの間、このままでいいですか?」
突然動きを止めた彼に、どうかしたのか?と、いうような視線を送ると、彼は笑顔で「やっと、先生と一つになれた」と無邪気に言う。
(それは俺も思った)そう言葉にしようとしたが、言うのが恥ずかしくなって止めた。
それが顔に出ていたようで、彼に「先生、顔がニヤニヤしてますよ」と言われ、照れ隠しのように「早く動いて下さい」と言った。
「先生、可愛い。キスしてもいいですか?」
「本條さんのしたいようにしていいって、言ってるじゃないですか」
「解りました。したいようにします」
そう言って彼はキスをしながら、指先で乳首を弄り出した。
(チンコ挿れっぱなしのまま、腰は動いてない。だけどキスされて乳首弄られて・・・なのに気持ち良い。なんだこれ・・・訳が解らない・・・)
「先生は、乳首弄られるのも好きなんですね」
そんな事を言いながら、彼は口から離れた舌を、乳首に当てて舐め始める。もう片方の乳首は指先で弄られる。
「っ・・・」
「気持ち良いんですね。凄い締め付けてきます・・・動いたらもっと気持ち良くなるかな・・・っと・・・」
「あ"っ・・・ん"っ・・・」
不意に奥を突かれて、息が止まるかと思った。そんな事を知ってか知らずか、彼は「先生はどこが一番、気持ち良い?」と聞いてくる。
俺は呼吸が整わず何も言えずにいると、彼は腰の動きをゆっくりにしながら言う。
「ちゃんと教えて?」
「はぁ、はぁ・・・お、奥・・・奥突いて欲しい」
「よく言えました」
彼は笑顔でそう言ったかと思うと、続けざまに「ご褒美です」と言って、激しく奥を突いてきた。
「ひっ、あ"あ"っ・・・ん"、ぐっ・・・」
「先生・・・セックスって気持ち良いんですね」
「なっ、ぅん"っ、あぁ・・・」
「そっか、先生とシてるからかな」
彼がニコニコしながら言った、その言葉を聴いた瞬間、唐突に思い出した。
(あぁ、あれは夢だったんだな・・・でも今こうして、夢の中じゃなく、現実に彼の言葉を聴いてるんだ)
そんな事を考えていたら「先生も気持ち良い?」と彼が、奥を突きながら聞いてくる。俺は返事をする余裕もなく、ただ無言で頷いた。
「奥をこうして当てると、凄い締まるんですよね。あとココ」
やはり飲み込みが早いのだろうか。俺の感じる所ばかりを、行ったり来たりしながら動かしてくる。その所為か何なのか、早くもイきそうになる。
「あぁっ、んっ・・・あ"っ、ん"・・・」
「イっていいですよ」
「やっ、あ"ぁ・・・い"っ、一緒がいい・・・」
「またそんな可愛い事言って・・・」
再び奥を突かれまくって、この身体を揺さぶられ続けて、もう限界だと思った時、彼が耳元で「灯里」と囁いた。
「ん、あ"ぁっ、ダメ・・・い"っ、イク・・・」
「俺も、もう・・・」
束の間の沈黙が訪れた。俺は、経験した事のない快楽に、身体も心も多幸感で満たされていた。
「あ〜気持ち良かった。先生はどうでした?」
「・・・・・・」
「え、先生?!どうしたんですか?どこか痛い?やっぱり俺下手でした?!」
彼が焦り半分、心配半分みたいに、矢継ぎ早に聞いてくる。俺は(どうしてそんな事を聞くんだろう?)と、不思議に思っていた。
(何か変なのか?)と思うと、確かに視界はボヤけてる感じだし、頬を何かが伝っているのだけは解った。
「え、あれ・・・俺、泣いてる・・・?」
「俺の所為ですか?いや、俺の所為ですね?!」
「いや、どれも違います。だけど理由は、自分でも解らないです」
本当に自分でも、泣いてる理由が解らなかった。けど何となく、悪い感情から来てるものではない気がした。
「先生・・・俺、本気で先生の事、大好きですからね。いや、大好きじゃ足りない・・・大大大大大好き!」
「ふはっ・・・子供じゃないんですから、そんな・・・あはは・・・」
「え〜だって、大好きより好きの言葉って・・・あっ」
答えに気付いたのか、彼は顔を真っ赤にした。そんな彼を見て、釣られて照れそうになるのを堪えて、軽く咳払いをすると、彼の顔を真っ直ぐに見て言う。
「俺も、本條さんが好きです。それに・・・」
「それに?」
「そうか俺、いま凄く幸せだな〜と思ったんです。さっき泣いてたのはきっと、嬉し泣きと言うか・・・幸せ泣きですね」
「幸せか・・・俺、先生を絶対に幸せにしますね!」
いつものように大きな声で、宣言するように言う彼を見て、心の底から(俺、本当に幸せだな)と、改めて思った。
「なら、俺の前から居なくならないって約束してくれますか?」
先生が言ったその言葉に、ずっと抱えてきたであろう、痛みや重みを感じた。その所為か一瞬、返事に詰まったが、自分の本気も解って欲しくて言葉にした。
「そっ・・・んなの、当たり前じゃないですか。消えてくれって言われても、絶対に居なくならないし、この先何があっても、先生だけは離しません。俺の命を賭けて約束します」
「また大袈裟な・・・でも、本條さんらしいですね。そういう所、好きですよ」
先生にそう言われて「嬉しい」と思ったら、身体が勝手に動いて抱き着いていた。すると先生は、照れ隠しなのか、付け加えるように言う。
「あとセックスの時、少し意地悪なトコも好きです」
「えっ?意地悪ですか?」
「少しですけどね。でも、不意打ちで名前呼ぶの反則です」
「あ、え?声に出てました?」
いつかは、名前で呼びたいという願望もあって、シュミレーションもしていたのは事実だ。想像の中とはいえ恥ずかしかったけど、名前で呼ぶ事を許されてると想像しただけで嬉しかった。
(だからって、リアルで許可なく呼ぶなよ俺。しかもヤってる時にって・・・最悪じゃん)
「名前で呼ばれるのが嫌な訳じゃないですよ。でも、本條さんに呼ばれると・・・」
「歳下なのに呼び捨てなんて、本当に失礼ですよね」
「そうではなくて、その・・・本條さんの、特別になったような気になるというか、自分の名前が特別な物に感じるというか・・・」
恥ずかしそうに俯いて、たどたどしく言う先生が可愛くて、再び先生を抱き締めて「先生は俺の特別ですよ」と言った。
「ねぇ先生。二人の時は、灯里さんて呼んでもいいですか?」
「呼び捨てじゃないんですね」と言って、先生は可笑しそうに笑った。
「いや、流石にそれは恥ずかしいし、まだハードルが高いです」
「本條さんの好きなように呼んで下さい」
「じゃあ・・・灯里さん」
「はい」
「思ったより恥ずかしいですね」
照れ臭くて、どうしたらいいか解らなかった。俺はふと(世の中のカップルって凄いな)と、変な事を考えた。
「慣れるしかないですね。呼ばれた俺も、照れ臭くささと、違和感が半々です」
「違和感?」
「だって、本條さんに呼ばれる時は、灯里先生か、先生のどっちかでしたからね。こうして改めて呼ばれると、何だか違和感あります」
(慣れか・・・確かにそれはあるかも。俺だって呼ぶ時につい、先生って言いそうになるかも知れないし・・・よし、出来るだけ名前で呼ぼう)
「灯里さん」
「はい」
「そうだ。灯里さんも俺の事、名前で呼んで下さい」
「嫌です」と言って灯里さんは、そっぽを向いてしまった。
「えっ、即答?!何でですか〜?名前で呼んで下さいよ〜」
「駄々をこねないで下さい」
「呼んでくれないと襲いますよ?」
「あはは・・・いいですよ」
(名前呼びは拒否したクセに、襲われるのはいいってどういう事?)と思いながら、ちょっとムキになって灯里さんを押し倒した。
「絶対に呼んで貰いますからね」
そう言ってキスをして、灯里さんが感じる所を弄り始めた。さっきまでシてた所為かは解らないけど、どこを触っても、灯里さんの身体は敏感に反応した。
「ココ・・・まだ少し濡れてて、柔らかいですね。指がすんなり挿入ります」
「あっ、んっ・・・だって、さっきまでヤってたじゃないですか」
「え〜と・・・ココですよね、灯里さんの良い所」
「っ・・・また、そこっ、ばっかり・・・ん"っ・・・」
(あっ、そうだこれ、咥えながら弄ったらどうなるんだ?動画だと、めちゃくちゃ気持ち良さそうにしてたけど・・・)
そんな事を思い出して、俺は灯里さんのを咥えて、灯里さんがシてくれるみたいに動かしてみた。
「ひゃっ・・・や、ちょっ・・・あぁっ・・・」
(お、これは気持ち良いのかな?)
「待っ、両方は、無理・・・あ"ぁっ、んっ・・・」
俺は口を離して「イきたい?」と聞いた。涙目の灯里さんは、無言で頷いた。
「名前呼んでくれたらイかせてあげます」
「っ・・・いっ、嫌です・・・」
「ホント頑固ですよね。これならどうかな?」と言いながら、俺は指を抜いて自分のソレを、灯里さんの中に挿れた。
「ん"っ・・・」
灯里さんの身体が、跳ねるように仰け反った。俺は腰を動かしながら、灯里さんの良い所を突く。なのに灯里さんは何故か、下唇を噛み締めるようにして、声を抑えようとしてるみたいだった。
「灯里さん、そんなに噛んだら切れちゃいます。噛むなら俺の指にして下さい」
俺はそう言って、灯里さんの口を開かせるように指を入れた。
「それに、そんなに我慢してたら苦しいでしょ?名前は呼ばなくてもいいです。でも、声は聴かせて?」
「ん"ん"っ・・・」
それでも声を出そうとしない灯里さんに、俺は(呼吸は出来てるとしても、これはこれで苦しいと思うんだけど・・・)と、どうしたらいいか解らくなった。
「あ、じゃあこれなら声聴かせてくれますか?」
俺はさっきと同じように、両方攻めてみようと思って、奥まで突きながら、灯里さんのソレを手で弄ってみた。
「あぁっ・・・ダメ、です・・・それ、は・・・ん"っ・・・」
「両方は気持ち良くて無理?」
「ぅんっ、あ"っ・・・あ"ぁっ・・・」
(やっと声出してくれた。それにしてもこれ、本当に気持ち良いんだな)
「ん"ぁっ・・・あ"っ・・・やっ、ダメ・・・」
「イきそう?」
「あ"、あっ・・・イきっ・・・あお、ばくん・・・青葉くん、イク・・・い"っ・・・」
「え、ちょっ・・・ん"っ・・・」
(やばい、確かに不意打ちの名前呼びは反則だな。思わず俺までイっちゃった)
「灯里さんの言う通りでした」
「え?」
「不意打ちの名前呼びはダメですね」
「あぁ・・・」と言って灯里さんはまた、そっぽを向いてしまった。
「無理に名前呼ばせようとした事、怒ってますか?」と聞くと、灯里さんは無言で首を振る。
「本條さん、あのですね・・・」
「やっぱり怒ってますか?」
「いえ、怒ってる訳じゃないんです。ただその・・・なんていうか、俺もこう・・・好きな人と付き合う事に慣れてないんですよ」
「そうでしたね」と返事をしたものの、灯里さんが何を言いたいのか、検討が付かなかった。
「だから、名前を呼ぶ事が嫌な訳じゃなくて、呼んでしまったら、理性だとかが吹っ飛んで、欲だけになってしまう気がして怖かったんです」
灯里さんが頑張って、気持ちを伝えようとしてくれてる事は解った。でも俺の頭では、灯里さんの言いたい事が、全く理解出来なかった。
「さっき名前を呼ばれて、本條さんの特別になった感じがしたって言いました。俺は自分が思っている以上に、欲張りだと思います」
「そうですか?」
「この先きっと、本條さんのその言葉に甘えて、我儘を言ったり、欲を押し付けてしまうかも知れない。そんな、重くて面倒な感情はいつか、本條さんの負担になるんじゃないかと思ったんです」
名前を呼ぶ呼ばないというだけの事で、そこまで考えて、思い詰めるとは思わなかった。
灯里さんらしいと言えば、灯里さんらしくはあるけど・・・だけどそこで、色々と我慢して欲しくない。今まで我慢し続けてきた灯里さんだからこそ、もっと我儘でも何でも言って欲しい。
「前にも言いましたけど・・・俺だってもう、既にいっぱい我儘をきいて貰ってます。多分これからも、いっぱい言っちゃうと思うんです。そういうの、灯里さんは嫌ですか?」
「本條さんの我儘や、お願いなら叶えてあげたいと思います。勿論、限度はありますけどね」
「そういう事だと思うんです。俺だって、灯里さんの我儘やお願いなら、いくらだって何だって叶えてあげたいです。だから、我慢しないで下さいねって言いましたよね?」
つい声を荒らげて俺が言うと、灯里さんは叱られた子供みたいな顔をしながら頷いた。
「それに、慣れなんですよね?好きな人と付き合う事も、名前を呼ぶ事も、それ以外の事も全部。だからこれから、二人で少しづつ慣れて行きましょう」
「・・・はい」と、照れ臭そうに微笑んだ灯里さんは、今まで一番、最高に可愛かった。
「これからですよ・・・俺達。二人でもっと色んな事を経験しましょう」
「そうですね」
「とはいえ、俺も経験ないから、どうしたらいいか解らないんですけどね・・・そうだ、二人で出来る事って何がありますか?」
「セックス」
「いや、うん。それはそうなんですけど・・・それ以外で何かないですか?」
確かにこの状況で、二人で出来る事といえばそうなる。そもそも外出は禁止だから、特に出来る事はたいしてなさそうだ。
「ん〜急には思い付かないですね」
「とりあえず、起きたら何しましょうか」
「俺は朝食を作ります」
「楽しみだな〜」
そんな他愛もない話をしていたら、灯里さんが「ふふ・・・そういう所、可愛いです」と、眠そうな顔をしながら言った。
(そりゃそうだ。仕事して買い物して、休む間もなくご飯作ってくれて・・・疲れてるに決まってるよな)
「灯里さん、眠かったら寝てもいいんですよ?」
「ん・・・本條さんも、寝ないとダメですよ・・・」
そう言うなり、灯里さんは寝てしまった。俺はその身体に布団を掛けて、そのまま自分も潜り込んだ。すると灯里さんは、もぞもぞと俺にしがみつくように、擦り寄って来た。
(か、可愛い・・・ていうか俺、この状態で寝れるか自信ないな。でも寝ないと怒られるよな・・・あ〜ダメダメ、何か違う事でも考えよう)
バカみたいな煩悩と理性の戦いを、脳内で繰り広げつつも、そんな心配を他所に、気付いたら朝になっていた。
(朝・・・あ、灯里さん!)と、飛び起きて横を見ると灯里さんが居ない。
「え、灯里さんが消えた?!」
「人間がそう簡単に消える訳ないでしょう。まだ寝惚けてるんですか?」
寝室のドアを開けながら入って来た灯里さんに、呆れられながら声を掛けられた。
「居た!良かった〜」
「まだ夢の中ですか?」と笑いながら言われて、俺も「目を開けたまま寝ませんよ」と、釣られるように笑いながら答えた。
「おはようございます、灯里さん」
「おはようございます。朝食できてますよ」
「あっ!」
「急に大きな声でなんですか?」
「え〜と、その・・・お願いが・・・」
思い付いたお願いが、我ながら初心者過ぎてる気がして、つい言い淀んでしまった。
「お願いですか?俺に出来る事ならしますよ」
「あの・・・おはようのキスをして欲しいです・・・」
俺がゴニョニョと言うと、灯里さんは俺の横に座って「おはようございます」と言って頬にキスした。
「嬉しい・・・」と呟いて余韻に浸っていると、灯里さんが「俺にはしてくれないんですか?」と、自分の頬を向けて言った。
(俺もするのか・・・恥ずかしいな〜)と思いながら、灯里さんの頬に「おはようございます」と言ってキスをした。
「じゃあ、シャワー浴びて顔洗ってきて下さい。料理が冷めちゃいます」
「は〜い」と返事をしながら、ベッドから降りると、灯里さんが「思ったんですけど・・・」と何か言いかけた。
「ん?どうかしました?」
「ベタですけど、こういうのもいいなって・・・」
「それ、俺も思いました。でも夜には灯里さん、帰っちゃうんですよね」
「仕事がありますからね。本條さんだって仕事でしょう?」
「そうです。ん〜仕事は好きだけど、ずっと休みでもいい気がしてきた・・・」
「らしくない事を言いますね」
「だって〜」と俺は、子供みたいに本気で駄々をこねた。そんな俺を諭すように静かに言う。
「本條さん・・・俺が帰るまでの時間を、二人で満喫しましょう。それに・・・」
「それに?」
「俺達は、これからなんですよね?」
「そうです。これからです!やりたい事とか、沢山しましょう!」
「はい」
そう・・・俺と灯里さんの時間は、これから始まる。
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