第6話

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第6話

Karte ー 3 ただ疑問に思ったから、躊躇いながらも質問をしたのは俺なのに、どうして質問された本條青葉の方が、不思議そうな顔をしているのか。 これまでの会話で、彼は「自分でも気付かなかった自分」という言葉や、それらしきニュアンスの言葉を何回か口にしていた。 (まぁこれで少しは、無自覚さが意識されるだろうけど、なんか厄介な方向に行ってる気がするんだよな)と思い、話の矛先を変えようと口を開こうとした時、彼が徐ろに話を始めた。 「あの、これが答えになるか解らないんですけど、一つだけ解ってる事があって・・・」 「いいですよ、話してみて下さい」そう促すと、少し言い難そうに彼は話し出した。 「こういう感情?って言うのかな・・・になるの、灯里先生にだけです。というか、こんなに色んな気持ちを持った相手は、先生が初めてです」 最初は言い難そうにしていたが、最後にはハッキリそう言って、彼は薄らと頬を赤くした。 (いや、なんで頬染めてんの・・・)と思った瞬間、前に関谷が言っていた「気に入られた?惚れられた?」という言葉が、頭を過ぎって行った。 「それは単に俺が、本條さんの担当医だからじゃないですか?」 「関谷先生に対して、こんな気持ちになった事はないです。寧ろ、灯里先生と仲が良いのが嫌です。というか、関谷先生が羨ましいです」 「嫌とか羨ましいと言われても・・・」と、返答に困った。 (子供のヤキモチかよ)と思った所でふと、さっきの話の中で気になった事を聞いてみた。 「先程の話の中で、俺に甘えてる気がすると仰っていましたよね。あれを具体的に言い表せますか?」 「え〜と・・・わざと困らせてみたり、ワガママを言ってるな〜と・・・自覚しました」 「なるほどね」と言って、頭の中で(やっぱり反動から来てるんだろうな)と思った。 「それで思ったんですけど・・・」と、彼は考える様に話をした。 「それって、親とか大人の気を引きたいっていう、子供っぽい感情ですよね?」 「まぁ、端的に解り易く結論付けるならそうなりますね。でもそれが本当に子供っぽい事かと聞かれると、それはケースバイケースだと思ってます」 「ケースバイケース?」 「子供だから、子供っぽいから、という理由だけでないと思うんです。それが大人同士であっても、相手の気を引きたいと思う事があります。それに、本條さんの様な仕事をされていると、それが特定の相手でなくても、ファンの気を引きたいと思うでしょ?」 確かに医療的な側面で捉えるなら、所見欄に「子供っぽい思考あり」と書くだろう。だが成人した大人には、それだけではない側面も含まれる事がある。 気を引きたい理由が、子供のそれとは違う感情が含まれるからだ。現に、目の前の彼には子供っぽい側面と、そうとも言い切れない側面が混在している様にみえる。 「そうですね。それも仕事の一つだと思ってますから」 「なので安易に、子供っぽいと決め付けるのは早計だと思います」 「俺に対する診断って、仮説ばっかりですね」と言って笑う。 「心を扱う分野ですからね。慎重に見極める必要があります。しかも本條さんとこうして話をするのは、三回目ですからね。まぁ、あの初診の時のカウンセリングを抜くと実質、二回目です。これで正確な判断は出来ませんし、俺はしません。心療内科的な判断は出来ますけどね」 すると「先生って真面目ですよね」と、言ったかと思うと、今度は「さっきの続きなんですけど・・・」と話し出した。 「さっきはあぁ言いましたけど、仕事であっても、特別気を引きたいとか・・・そう思った事が、実はあまりないんです。それこそ思春期の頃とかかな?いや勿論、そう意識して撮影したりはしますよ。でもいつの頃からか、あまり意識した覚えがなくて・・・」 (ん〜・・・これも、無意識に抑え付けていた結果なのか、単なる習慣なのか・・・判断しにくいな) 「家族や野崎さんも含めて、俺の中では野崎さんも家族ですけど・・・家族相手にわざわざそんな事をする必要がないですしね」 (さぞ幸せな育ち方をしたんだろうな。そんなの・・・それを持ってるから、当たり前の様に言えるんだよ) そう思ってしまったら、自分でも抑え切れない程の感情が溢れ出て、言葉が勝手に口から出てしまった。 「家族相手にでさえ、気を引きたいと思う人も居るんです。本條さんがそう言えるのは、幸福なご家庭で、愛情も何もかもが与えられて育って、何不自由なく幸福に暮らしてきたからです」 相手が患者である事を忘れてつい、俺はカッとなって言ってしまった。 「先生・・・?あの、何か気に触る事を言ったならすいません。でも決して悪気があった訳じゃなくて・・・そうですよね、世の中の人達が皆、俺と同じな訳じゃないですよね。ちょっと無神経だったかな・・・」 彼の驚きと困惑に顔を歪めた顔を見て、俺は我に返った。 (患者相手に何を言ってるんだ。今まで一度だって、診察中にこんな風になった事なかったのに・・・なんで・・・)と、そうは思っても動揺は治まらず、目の前の彼と顔を合わせる事も出来ずにいた。 溢れ出そうな涙を堪えて、その顔を隠す様に、小刻みに震える手で必死に覆った。 「大丈夫ですか?関谷先生呼びますか?」 心配する様に言う彼の言葉に、無言で首を振った。すると、不意に彼は俺のその手を、優しく包み込む様に手を重ねて、落ち着いた声で優しく言った。 「今言う事じゃないかも知れませんけど、俺は先生の気が引きたい。甘えるのも、さっきみたいにキスするのも、こうして触れるのも先生がいい」 その言葉を鵜呑みに出来る程、俺は世間知らずでもなければ純粋でもない。なのに今は何故か、その手を振りほどく事が出来なかった。 「そういうのを世間一般的に、恋と言うんですよ」 「なら・・・俺のこの気持ちは恋ですね」と、嬉しそうに言った。 (そんなの錯覚だよ)と思ったが、あえて何も言わなかった。というより、言う気になれなかった。 恋愛感情も他の感情と同様に、目に見えず絶えず移ろう。下手をしたら、恋愛感情の方が移ろい易く脆い。 彼はきっと、本音が言えて、それを見せられる相手が俺だけだという感情を、恋愛感情と履き違えてるのだ。 「そういう事は、軽率に口にしない方がいいですよ」 俺は落ち着きを取り戻して、自分の手ごと彼の手を退けて、その顔を見ながら言った。すると彼は、真剣な顔をして言った。 「軽率なんかじゃないです。先生の言った恋って言葉が、自分の中で凄く納得出来きたんです。それにその言葉で今までの事・・・自分が感じてた疑問とかとを照らし合わせると、全て当て嵌る気がするんです」 「あのですね。そもそも恋だと言ったのは一般的にというか・・・一つの例えで言ったんです。なので、本條さんのその感情を、恋愛感情だと言い切ることは、俺には出来ません」 俺が断固突っ撥ねる、というような言い方をしたせいか、急におとなしくなった。部屋も一気に静かになった気がした。 すると、その静けさを破る様に、彼は呟いた。 「それだって仮説で、一般論でしょ・・・」 一瞬、彼が何を言っているのか解らなかったが、一連の話の流れから察するに、俺の言った事に異を唱えるつもりだろう。 確かに彼に対するカウンセリングでの所見は仮説ばかりで、内科的な所見しかハッキリした事は書けないでいる。 (だからって嘘や曖昧な事は書けない・・・) 「本條さん。少し時間が過ぎているので、すいませんが今日はこれで終わりにします。もうすぐ昼食の時間になりますから。それと、次のカウンセリングの予定ですけど・・・」 タイミングよく時間になった事に救われた気がした。続く彼の言葉を聴く気になれなかったからだ。 「いつですか?」と、笑顔で興奮気味に言った。 (気持ちの切り替えが早いな)と思ったが、今はそれにすら救われた。 「シフトの交代があったので、明日の夜になります」 「やった!明日も会えるんですね」 彼はカウンセリングも一つの医療行為であると、ちゃんと認識しているのだろうか?まさに満面の笑みで、嬉しそうに言った。 「連続して行うのはどうかとは思ったんですが、これを逃すと次が来週のこの、いつもの時間帯になってしまうので・・・」 「俺は先生に会って話が出来るなら、毎日でも良いくらいなんで嬉しいです」 (耳と尻尾と見えそうだな・・・)とさえ思えてくる。そんな風に思ってしまう俺も、どうかしてると思った。 「ではまた明日」と言って病室を出ると、俺はスタッフルームへと向かった。 ちょうど昼休みになったから、持って来ていた弁当を食べていると、ドアが開いて関谷が入って来た。 「お、弁当なんて久し振りじゃないか?相変わらず美味そうだな」 「昨夜、時間があったから久し振りに料理したんだよ。それなら、弁当の分も作ろうと思っただけ」 俺は弁当を食べながらそう答えると、関谷が向かいの椅子に座った。購買で買ってきた弁当を開けて、食べながら話始めた。 「そういえばあの後、ちゃんと本人に注意したか?」 「当たり前だろ」と答えた。 「だよな。ていうか、ここに来る前に本條さんの病室に寄ったんだけどさ〜」 関谷の一言に何故かドキッとした。彼の様なタイプは、迂闊な事は言わないだろう。 でもそれは「今までの彼ならば」の話だ。もしかしたら「今の彼ならば」言ってしまうのではないか、という心配が少なからずあった。 (でも・・・こうなるのは俺にだけって言ってたし・・・って違うだろ。ホント調子狂うな) 「「すいませんでした」って、普通に謝られた。灯里先生にも凄く怒られたって言ってたぞ」 「確かに怒ったけど・・・普通だと思う」 俺がそう言うと、関谷は「灯里は普通に怒っても怖いからな〜」と言って笑った。そして思い出した様に言う。 「あぁ・・・それと、テレビかスマホの使用許可が欲しいって言うから、決められた時間内なら使っても良いって言っといた。別にいいだろ?」 「あぁ、現状では何も問題ない。それにいい加減、退屈だろうしな」 本條青葉が最初に倒れて入院して、ここに転院してからトータルすると、もうすぐで一ヶ月になる。 (有名人でなきゃ本当は、庭や購買に行ったり、フリールームくらいには行けるんだけどな・・・) 「ていうか灯里。昨夜は料理してたって言うけど、せっかく定時であがったのに、遊びに行かなかったのか?」 「そういう気分じゃなかったんだよ。でも明日、当直だから今日はセフレと遊ぶよ」 俺がそう言うと、関谷は溜息を吐きながらペットボトルのお茶を飲んで言う。 「あのさ、難しいのは解らなくもないけど、そろそろ特定の相手でも見付けて、ちょっとは落ち着いたらどうなんだ?」 「難しいのが解ってるなら簡単に言うなよ。それに・・・俺には無理だよ・・・」 「そんな事は・・・」と言って、心配そうに見る。俺はそんな関谷に向かって言う。 「そういうお前こそ。ノンケなんだから見付けやすいだろ。人当たりも良くて、優しいって評判の関谷先生は、恋人作らないんですかぁ〜?」 「余計なお世話だ。こちとら元宮先生と違って、顔の出来が違うんでね」と拗ねた様に言う。 「頭の出来もだろう?」と揶揄うと、更に拗ねた。俺は食べ終えた弁当箱を軽く洗うと、再び関谷に向かって言う。 「安心しろ。性格はお前の方が断然良いぞ」 「性格か~。あ、そういえばさっき、本條さんの所に行ったって言ったじゃん」 そう言いながら、関谷も食べ終わった空の弁当箱を片付け始め、これまた思い出した様に話し出した。 「気の所為かも知れないし、一瞬だったんだけど、本條さんの俺を見る目がさ・・・睨んでる?訳じゃないんだけどこう・・・鋭い感じがしたんだよね。俺の事、何か聴いてる?」 (本当の事を全て話すべきなんだろうけど、このタイミングで言うのはちょっとな・・・) そう少し逡巡した挙げ句「何も聴いてないけど」と、嘘を吐いてしまった。 そして関谷に(すまん、もう少しハッキリしたらちゃんと話するから)と、心の中で両手を合わせて謝った。 「まぁ一瞬だったし、気の所為かも知れないしな。そんじゃあ、午後も元気よく働きますか〜」 「っるさっ・・・お前のその無駄にデカい声、どうにかならないのかよ」 俺がそう言うと「いやですわ。診察中はお淑やかですのよ」と、しなを作って関谷は言った。それを見て俺は「キモッ」と言って笑った。 「灯里くん、久し振りだね」そう言いながら笑う、今日の相手はセフレの一人で、三十代半ばのエリートサラリーマンの小野田さん。 「遅れてすいません」と言う俺に、彼は「大丈夫、十分くらしか待ってないよ」そう言って、自分の腕時計を俺に見せる。 世の中には十分待つタイプと、十分待たないタイプがいる。そしてその逆も然り。 「仕事なら仕方ないじゃない。それより、ちゃんと終わらせてきた?」 「待たせたんですから、ちゃんと終わらせてきましたよ」 「偉い偉い。っと・・・そうそう、食事はいつもの店を予約しておいたんだけど、たまには違う店にしようか?」 (こういう所なんだよな。関谷とは違って、ただ甘やかすっていうか、子供扱いするだけじゃないっていうかさ・・・) 「いつものお店でいいですよ。俺、あそこのシェフの気紛れシリーズ好きなんです。いつも、今日はどんな物が出てくるんだろう、って待ってるの凄い楽しみなんです」 「じゃあ早速行こうか」 「はい」と言って、俺は小野田さんの後ろを歩いて行く。着いた先は某一流ホテル。 エレベーターに乗って最上階に着くまでの間、音が響くくらいに絡ませた濃厚なキスをする。 最上階に着いて互いの唇を離す。扉が開いて数歩進むと、夜景が一望出来るレストランがある。小野田さんのいくつかある、行き付けの店の中の一つらしい。 ウェイターがオーダーを聞きに来ると俺は「シェフの気紛れフルコース」と言った。小野田さんはそれを聴いて小さく笑うと、自分の分の料理とワインのオーダーをした。 「小野田さんは相変わらず、いつも同じ物を頼むよね」 「僕は、灯里くんと違って冒険しないタイプんだよ」 「奥さん居るのに、どの口が言うんだか」と笑って言った。 「妻に会う前に灯里くんに出会ってたら、どんなに良かっただろうって思うよ」 (その前に出会ってたら、俺は今頃捨てられて、今ここでこうしてないと思うけどね)と思った。 「今日も終わったら帰るの?」そう聞くと、彼は苦笑いをして「平日に泊まる理由がなくてね」と言った。 「そっか・・・」と視線を下に向けると、彼は申し訳なさそうな顔で「ごめんね」と言った。 小野田さんはゲイだが既婚者だ。上司からの縁談を断れずに、無謀だと解っていながら結婚したとか。 (解ってて結婚する時点で矛盾。そんでこうして男の俺と、浮気してんだから更に矛盾してる) そうは思っていても、人は上手く生きる為に、何かしらの矛盾を抱きながら、何かしら妥協をして生きていくものだ。 (やっぱり俺には無理。そもそも特定の相手だとか、恋人だとか夫婦だとか・・・いつまでも一緒になんて・・・) 「灯里くん、今日の料理はどう?」と、不意に声を掛けられて我に返った。 (今日これで何回目だよ)と、自分で自分に呆れながら、小野田さんには笑顔で「今日のも凄く美味しいです」と言った。 「灯里くんは食べてる姿が一番素敵だよね」 「早く食べられたいですか?」と聞くと、視線を泳がせながら「うん」と、小野田さんは微かな声で言った。 「俺も早く食べられたいですけどね」 そう挑発すると、小野田さんは「もう出ようか?」と言った。 「残すのは嫌いです。もう少しで食べ終わりますから待ってて下さい」 「解ったよ」そう言いながらも、小野田さんはワイングラスを、手持ち無沙汰の様に弄びはじめた。 無言で食事に専念すると、数分後にはすっかり平らげて「ご馳走様でした」と言った。 「急かせてごめんね」と、小野田さんが言うので、俺は「大丈夫ですよ、いつもはもっと早いんです」と言った。 (これでも早い方なんだけどな。確かに早食いは良くないんだけど、あんまりゆっくりは食べてられないし。食べれるだけマシかな)と思った所でふと(成程、本條青葉もこれと同じなのか?)と納得した。 「灯里くん、どうしたの?」 「あ、すいません、なんでもないです」と言って、慌てて小野田さんの後を追った。 部屋に入るなり、小野田さんが抱きついてきて、貪る様にキスをしてくる。 絡まる舌と舌の隙間から、さっきまで飲んでいたワインの匂いと味がする気がした。暫くするとその匂いも味も薄くなり、互いの唾液の匂いと味が混ざり合ってくるのが解る。 一旦唇を離し、俺が「シャワー浴びて来る」と言うと、小野田さんが「時間がもったいないから一緒に入ろう」と言ってきた。 「それ絶対シャワー目的じゃないでしょ」と言って笑った。 「ベッドまで我慢出来なかったらごめんね」 小野田さんはそう言うと、手を繋いでバスルームまで行った。 「バスタブにお湯が張るまで、シャワーで洗い流しておこうね」 小野田さんは耳元でそう言うと、手にボディーソープを出して、俺の身体に舐めるように手を這わせる。 両腕を首元から肩へ、肩から腕へ・・・そして胸元に来ると、乳首を摘み始める。身体が反応して思わず「ぅんっ・・・」と、声が出てしまう。 指先で軽くクルクルしたり、コリコリと弄られると身体が反応して、その度に「あぁっ・・・」と声が出て、バスルームに反響した音がやけに大きく聴こえて、余計に身体が反応してしまう。 片方の手が這うように下へと伸び、俺のチンコを弄り出す。弄られるまでもなく俺のチンコは、快感を待って勃っていた。 「灯里くん、気持ちいい?ほら、我慢汁がもうこんなに出てるよ」 ボディーソープとは明らかに違う温かい液体が、チンコの先から出ている事は自分でも気付いていた。 「でもまだ出しちゃダメだよ。こっちも綺麗にしないとね」 そう言うと、小野田さんは俺の金玉を弄りだし、そのままアナルへと指先を動かした。ツプッとしたような感触と共に、指先がアナルの中へと挿入った。 「あ”っ・・・」 「ちゃんと洗わないとダメだからね」 そう言うと、小野田さんは指を一本づつゆっくりと増やす。その度に身体は痺れ反応して、熱く荒い息と共に声が出る。 小野田さんが指を抜くと、シャワーを全身に浴びせる。アナルの中にもシャワーの湯を入れては出す。そして、俺の手を引いてバスタブまで行く。 「お湯が溜まったから、一緒に入ろう」と言った。二人で湯に浸かると、後ろから抱き締められ耳元で小野田さんが言う。 「ずっとこうしてたいな」 「ベッド行く?」と聞くと、小野田さんは首を横に振って「ここでしよ」と言って、胸元に手を当てると、乳首を弄り出した。 小野田さんのチンコが、水圧と身体の動きで、時々アナルを刺激してくる。それがもどかしくて「早く挿れて・・・」と思わず口にした。 「コッチ向いて」と言われて、その通りに俺は小野田さんの方を向いた。向きを変えた俺の乳首を、舐め回したり吸ったりする。 「うんっ・・・」 片手で俺のチンコをゆっくり擦りながら、もう片方の手でアナルを弄り出す。 「あ”ぁ、両方はダメ」と言うと、小野田さんは「立って壁に手着いて」と言った。 「灯里くんが逆上せちゃうと大変だからね」 俺のチンコを舐めながら、小野田さんが言う。乳首を弄る手も、アナルを軽く弄ってる手も止めてくれない。 「そんっ・・・色々されたらイっちゃう・・・」 「うん」と言われて、思わず小野田さんの口の中で射精ってしまった。 「溜まってた?」そう聞かれたけど、話をす余裕もなく、小野田さんは俺の精子をアナルに吐き出すと、自分のチンコをアナルに挿入れた。 「あんっ、あ”っ・・・」 自分の喘ぎ声と、チンコがアナルを出たり入ったりする音と、バスタブの湯が揺れ弾ける音が、一層やらしく感じさせた。 事が終わって、互いにシャワーを浴びる。 そうして暫くすると、小野田さんは言った。 「帰るのが面倒だったら泊まっていっていいからね」 そう言って小野田さんは帰って行った。一人残された部屋はやけに広く感じた。 (そりゃそうか、シングルじゃないもんな。もったいないけど、落ち着かないし俺も着替えて帰るかな) そう思った時、ふと関谷が言った言葉がまた頭を過ぎった。 (だから、俺に特定の相手は要らないんだって・・・どうせ幸せになんてなれないんだから) すると今度は本條青葉の言葉が、頭を通り過ぎる。 『甘えるのもさっきみたいにキスするのも、こうして触れるのも先生がいい』 何をどうしたら、こんな短絡的な思考になるのか解らない。 (いや、これは恋について話をする前に言った言葉だった。それにしたっておかしい。でもこれすら無意識に出た感情だと思うと・・・それこそ表現が難しいな) 無意識だからこその真理と言えなくもないけど、こじつけとも言えるのではいか。 (ん〜訳が解らなくなってきたな・・・)と思いながら、ベッドに大の字に寝転がった。 ここまでくると心理学って言うより、ほぼ哲学だと思った。 (あぁ・・・そういえばまだ学生の時、教師だか講師だかが、そんなような事言ってたな) 『心理学とは即ち、真理学であり、哲学である』 その時は「暴論だ」だとか「謎理論だ」なんて騒いでる奴等も居たけど、こうして色んな人間に接して話していると、あながち間違いでもない気がしてきた。 (帰ったら着替えて・・・早目に行って本條青葉のカルテをもう一度見直そうかな・・・)そう考えていたら、いつの間にか眠りに就いていた。
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