45人が本棚に入れています
本棚に追加
第7話
Action ー 4
今日の俺の感情や行動は、自分でもおかしいという自覚はある。それは灯里先生に指摘されるまでもなかった。
ただ自信を持って言えるのは、この気持ちは恋だと思う。そう気付いたものの、先生にはキッパリ否定された。それでも、この感情が恋だと思った根拠はちゃんとある。
先生と居ると落ち着く、先生の気を引きたい、先生の事を知りたい、先生とキスしたい、先生に触れたい・・・だからって、今日みたいな強引な真似はもうしない。
(あれってほぼ犯罪だよな・・・)と、夜になってあの時の事を反省した。それと同時に、あの時の事を思い出して勃った。
(俺ってば、数秒前の反省はどうした)と、我ながら情けないというか、呆れてしまった。そうは思っても、一向に収まる様子がない。
(また・・・自分で抜かないとダメなのか)と思ったが、そういう相手がいない俺には、自分で抜くしか方法がない。
俺は昼前に、関谷先生から使用許可を貰っていたスマホを手に取ると、電源を入れてロック画面のロックを解除した。
検索で「エロサイト」と呼ばれる、無修正の動画サイトを覗いたりしたが、どれも同じに見えてしまい、気持ちが萎えて数分で見るのを止めた。
(見て抜こうとしたのに何で止めた?なのにまだ収まってないのは何で?!)と、当然の如く頭の中がパニックになってしまった。
確かに、見た目だけならいいなと思う女性はいた。髪の長さも程よく短くて、少しツリ目気味。
(これで泣きボクロがあったら、もっと良かったのに・・・)と、チラッと見たAV動画の女性達に、いつの間にか灯里先生を重ねていた。
(先生の唇柔らかったな。押し倒した時のあの華奢な身体。あの服の下の白い肌は触り心地も良さそう。男でも乳首は感じるのかな?あのAVの女性みたいに、乳首弄られて気持ち良くなるのかな。あんな風に感じて、喘いだりするのかな。先生がやらしく喘いでる声を聴いてみたい・・・はっ、先生・・・先生っ・・・)
すると、頭の中で『本條さん』と呼ぶ、先生の声が脳内再生されて、我慢出来ずに射精してしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・」と、自分の荒い息遣いだけが、静かな病室に響く。そして自分の愚行を恥じた。
(先生は俺の病気を真剣に、治してくれようとしてんのに、俺はまたしても先生をおかずに抜いた。ん?そもそも俺ってゲイだったのか?いや、違う。先生だから・・・)
そこまで考えて、重要な事に気付いた。
(俺は先生が恋愛対象。つまり、先生に対してだけゲイ。だけど、先生の恋愛対象は普通に女性かも知れない。偏見はないと言ってたけど、ゲイだとは言っていない訳だし・・・て事は、俺の初恋は失恋で終わるのか)
そう思うとやっぱり、この感情は恋以外の何物でもないと思う。先生の言う通り、子供っぽい気の引き方をしているかも知れない。押し倒したりするのは・・・子供っぽくはないけど。
(そういえば、共演した女性からそれっぽい感じのアプローチを受けたような気がする。なるほど・・・あれはつまり、俺の事が好きだっていう意思表示だったのか・・・)
そう思うと俺は、今まで好意を寄せてくれてた彼女達に、頭を下げて謝りたくなった。
「俺って鈍感過ぎだろ・・・」と、思わず声に出して言った。いや、鈍感というより仕事以外の事に、興味がなさ過ぎたんだと思う。
友達と呼べる友達もいない。俳優仲間はいるけど、友達と言ってもいいのか解らない。
そもそも、恋愛にしても友達にしても、何を基準にしたらいいのか解らない。
(そういう線引きって言うか、定義ってなんだろ?友達と親友の違いは?恋と愛の違いって何?)
そんな事を考えていたら、少し眠くなってきた。最近は少しづつだけど、寝る時間が増えた気がする。勿論、薬の力もあるんだろうけど、なんとく・・・ふわふわしてくる。多分これも薬の力なんだろうけど。
(そうだ、明日また先生に会える。楽しみだな〜)と思った所で(まてまて、そうだった・・・俺また先生をおかずに抜いたんだった・・・)そう思って、再び一人反省会を始めた。
起床時間を告げる音楽が流れて、俺は目を開けた。一人反省会をしてる間に、どうやら寝落ちしたようだ。
それはいいとして、どういう訳か凄く良く眠れた気がする。その所為か、身体も軽く感じるし、頭もスッキリしている感じがする。
(当たり前の事なんだろうけど・・・)そう前置きして(これが普通というか、健康って事なんだろうな)と思った。
そんな、なんて事のない、ごく普通の事を考えていた。その上、朝の食事も難なく完食して、少し足りないとすら感じた。食事を完食して尚、足りないと思う事もきっと健康な証拠なのだろう。
(これが毎日ちゃんと続けば、退院して仕事に戻れるんだろうな)と、少しの願望も込めてそう思った。
歯磨きや顔を洗っていると、朝の回診の時間になった。ベッドの端に座っていると、病室をドアがノックして、関谷先生と看護師さんが挨拶をしながら入って来た。
「おはようございます、本條さん」
「おはようございます」
俺も「おはようございます」と、笑顔で挨拶をする。すると、関谷先生は俺の顔をまじまじと見て、笑顔で質問してくる。
「本條さん、顔色が凄く良いですね。随分スッキリしている感じがしますけど、何かありました?」
「凄く良く眠れた気がします。その所為か食事もちゃんと完食しました」
俺は起きてからの事をそのまま伝えた。
「それは良い傾向ですね。具体的にどのくらい寝れたとか解りますか?」
「すいません、それは覚えてないです。ちょっと考え事をしていて・・・気付いたら朝になっていた・・・って感じです」
俺は寝る前の状況を、そのまま簡潔に話すと、関谷先生が「考え事をしていて気付いたら朝に・・・なら、マイナスな考えではなかったんですね」と言った。
「う〜ん・・・マイナス・・・」と思わず唸った。
欲に走った結果の一人反省会を、プラス思考と言うのかどうか俺には解らない。かといって内容が内容だけに、それをそのまま伝えていいのかも解らない。
「あ、そんなに深く悩まないで下さい。ほら普通は、マイナス思考に陥って悪い方向に考えが囚われたら、寝れなくなるじゃないですか。本條さんは寝れたというから、その逆だったのかな〜って思っただけです」
「はぁ・・・」とつい、気のない返事をしてしまった。
「でも良く眠れた、食事も完食出来て、顔色も良い。この調子で気長にやって行きましょう。今日は夜に、元宮先生のカウンセリングがありますね」
灯里先生の名前が出てきた瞬間、心臓が口から飛び出そうなくらいドキッとした。
「元宮先生にも、この事を話してあげて下さいね」
「え、あ、はい。話します」と、自分でも動揺しているのが解った。
関谷先生は一瞬キョトンとしたような顔をしたが、すぐに笑顔になって「カウンセリングは楽しいですか?」と聞いてきた。
「はい、凄く楽しいです。灯里先生も面白いので、あっという間に時間になっちゃいますね」
「へぇ・・・」
俺が思っている事をそのまま話すと、関谷先生は感心するように言った。
「元宮先生と仲良くして下さいね。じゃ、僕は次に行きます」そう言い残して、関谷先生は看護師さんと一緒に病室から出て行った。
(何か意味深な事言われた気がするけど・・・気の所為かな?でも相手は関谷先生だからなぁ〜)
曲がりなりにも、関谷先生だって精神科医な訳だから、俺の言葉の一つ一つから何かを感じる事もあるだろう。それでも何故か穿った考えをしてしまうのは、灯里先生が絡んでいるからなのか。
(もしかして関谷先生って、灯里先生の事が好きとか・・・)と、何気なく湧いて出た疑問。
灯里先生は関谷先生の事を、恋愛対象として見てないと言い切っていた。でも関谷先生は、灯里先生を恋愛対象として見てる可能性だってある思う。
(いやいや、いくら俺が灯里先生を好きだからって、関谷先生もそうとは限らないだろ。それにそんなに都合良く、周りにゲイがいる訳・・・まぁ、業界には多いけど・・・)
それにしても、昨日からずっと恋愛に関する事ばかり考えている。本来なら、ここに入院している原因だとか、早く退院する為の事を考えなきゃいけないハズなのに。
(て言っても原因なんて解らないしな〜。けど、早く退院する為に必要な事は、今日みたいな調子を続ける・・・維持させるって事で良いのかな?)
そんな事を考えたり、気分転換にスマホで面白い動画を見ているうちに、気付けば時間は昼を過ぎて夕方になっていた。
(後少しで夕食か・・・早いな〜)と思った。
入院していると、特にやる事もなく一日が過ぎる。退屈ではあるけど、これまでの自分の事を振り返ったり、今まで気付かないでいた自分の事を知れるのは、きっと良い事なんだと思う。
過去の自分を知る事で、今の自分・・・そして、未来の自分に繋がるんだと思う。
(今まで本当に無意識で、無自覚だったんだろうな。灯里先生は自分の心を守る為だって言ってたけど・・・どうなんだろ?)
そんな事を考えていたら、夕食の時間になっていた。俺は夕食を食べながらも尚、先生との遣り取りを思い出していた。
(先生の言う通り、自分の心を守る為なんだとしたら、本来の俺はもっと違う性格って事になる。もし、そっちが本来の俺なら、今の俺は偽物って事で・・・それってやっぱり、二重人格って事になるんじゃないのかな?)
先生はまだ解らないって言ってたけど・・・専門家でもやっぱり心の中を知るのって難しいんだろう。
すると、不意に病室のドアをノックする音が聴こえた。俺が返事をすると、スタッフさんが「食事は済みましたか?」と、言いながら入ってきた。
俺は手元の配膳を見ながら「あ、はい。ご馳走様でした」と言った。どうやら、考え事をしてる間に完食していたようだ。その所為だろうか、あまり食べた気がしない。
その事をスタッフさんに言うと、スタッフさんが申し訳なさそうに言う。
「すいません、おかわりはないんですよね。決められた量しか作ってないので・・・後で、主治医の先生に伝えておきます」
俺は、つられるように「すいません、お願いします」と言った。
「でも最初の頃より、随分食べられるようになりましたね。これなら、通常食でも大丈夫そうですよね」
「そうですか?」と、首を傾げた。
「主治医の先生に、相談してみたらどうですか?」そう、スタッフさんが提案するので、俺は「じゃあ、聞いてみます」と言った。
「それじゃあ、回診までゆっくり過ごして下さいね」
そう言ってスタッフさんは、食器を片手で持ちながら病室から出て行った。
(回診か・・・あっ、今日は回診の後にカウンセリングがあるんだ。灯里先生に会える)そう思ったのはいいが、昨日の事を思い出すと気が重くなる気もする。
(ホント、どんな顔して会えばいいんだ・・・でも先生には会いたい)と、また自分でもよく解らない気持ちを抱えてしまった。
暫くモダモダしていると、時計はそろそろ八時になろうとしていた。病室のドアをノックする音が聴こえた。
俺が「どうぞ」と言うと、灯里先生が「失礼します。すいません、ちょっと遅くなりました」と言いながら入って来た。
「大丈夫ですよ。無理を言ってるのは俺の方なので、気にしないで下さい」
俺がそう言うと、先生の顔が少しホッとしたように見えた。そして、手に持った小さな紙袋を差し出して言う。
「夕食だけでは物足りないと、スタッフから聴いたので、良かったらこれどうぞ」
「え、いいんですか?」と、俺はその紙袋を受け取りながら聞いた。
「いいですよ。といっても、スタッフルームにあった差し入れのお菓子なんですけどね」
「差し入れのお菓子を貰っても平気なんですか?」
「なので、内緒ですよ」と言って、はにかんだ笑顔がめちゃくちゃ可愛い。
「でも、もし甘い物が苦手なら、無理して食べなくていいですからね」
「いや全然、大丈夫です。甘い物すっごい大好きなんで嬉しいです」
例えそれが差し入れのお菓子であっても、先生から貰える物なら、何でも嬉しいに決まってる。
「なら良かったです。でも虫歯になると大変なので、寝る前にちゃんと歯磨きして下さいね」
「言われなくてもちゃんとしてます。定期的に歯科医にも通ってます。お陰で虫歯はありません」
俺は子供扱いされた気がして、ムキになって言い返してしまった。それに気が付いて(今の言い方は子供じゃん・・・)と思った。
すると先生は、全く意に介さないといった感じで「言われてみれば、歯並びも綺麗ですよね」と、顔を近付けながら言った。
(え、ちょっ、待って・・・近い。嬉しいけど心臓に悪い・・・)と思って、思わず目を閉じてしまった。
「あ、不躾にすいません。たまに思うんですけど・・・雑誌に載っている殆どの方って、歯並びが綺麗で真っ白な方が多いじゃないですか。やっぱり、歯列矯正やクリーニングやホワイトニングなんかも、きちんとしているのかな〜と、ずっと不思議だったんですよね」
(先生の髪の毛良い匂いする・・・じゃなくて、もうなんか色々やばい・・・)
「せ、先生あの・・・」俺はボソッと呟くように言う。すると先生は「あ、すいません」と言って、慌てて俺から離れた。
「俺の悪い癖なんです。興味のある事となるとつい、食い付いてしまって・・・本当にすいませんでした」
「いや、その、嬉しいんですけど・・・理性というか心臓が保たないので・・・。それに歯のケアも仕事のうちです」
俺がパニクって訳の解らない説明をすると、先生は「歯のケアまでするんですね。それなら、もしかして手のケアもしてますか?」と、唐突な事を聞く。
「手?あぁ・・・してますよ、ほら」と、俺は両手を出して見せた。
「凄っ・・・綺麗ですね。ん?ちょっといいですか?」と俺の手を掴んで、まじまじと見始めた。
「ぅわ〜爪も綺麗だな・・・ちょっとゴツゴツしてますけど、パッと見なら女性の手と区別がつかないかも知れない・・・いいな〜」
俺には何がいいのか解らないけど、心臓には何もよくない。それよりも(今日の先生、やけにスキンシップというか距離感がおかしくないか?)と思った。
「手の綺麗な人っていいですよね。俺、俗にいう手フェチなんです。あと最近、気付いたんですけど、声フェチかも知れないって」
「はぁ・・・?」と、先生の唐突なカミングアウトに、驚きのあまりに間抜けな返事をしてしまった。
「手フェチの理由って言うのかな。まぁ・・・単に、コンプレックスなんですけどね」
「コンプレックス?」と聞くと、先生は自分の手を俺の目の前に差し出して「男の手の割りに小さいでしょ?」と言った。
「そうですか?比べてみます?」そう言って俺は、先生の手に自分の手を合わせた。
「え〜と・・・大きめの女性の手って感じ?」
「まぁ、身体も小さい方なので、仕方ないとは思うんですけど。女性の看護師さんで、背の高い方が居るの解りますか?」
「あぁ、いますね」と頭の中で、思い出しながら答えた。
「身長は大差ないんですけど、彼女の方が手大きいんですよ。関谷の手は大きくてゴツゴツしていて、いかにも男って感じの手だし」
(ん~?手の大きさと身体の大きさって、比例するんだっけ?)と、素朴な疑問を持った。それと同時に(今日の先生は何が言いたいんだ?)と思った。
「ではここで、本條さんに質問です」と、急に話を切り替えた。
「え、はい、どうぞ」
「本條さんはコンプレックスありますか?」
「コンプレックス・・・ですか?」と言って、俺は考え込んだ。
「コンプレックスに対する度合いは置いといて、あるかないかだけでもいいですよ」
そう言われても、急には浮かんでこない。そもそも意識した事がない気がする。誰かと比べた所で俺は俺でしかない。だから特に誰かと、比較する必要はないと思っているし、考えた事もない。
「ないと思います」と答えると、先生は「本当にそう思いますか?」と言った。
「どういう意味ですか?」
「そうですね、例えば・・・周りは普通に経験している事なのに、自分は経験していないとう事に対するコンプレックスとか・・・どうですか?」
俺は一瞬、先生が何を言っているのか、何が言いたいのか解らなかった。
「それってコンプレックスになりますか?」
「捉え方次第ですけどね。本條さんの事だからきっと、そうは捉えてないと思います。でも、そうだとは思わなくても、心の何処かでは、意識している事もあるかも知れません」
(そうは捉えてなくても、もしかしたら意識してるかもか・・・何かあるかな・・・)と思い返して、一つだけ心当たりにぶつかった。
「あ・・・いや、でも違うような・・・」そうブツブツ言っていたら、先生が「何か見付かりました?」と聞いてきた。
「その前にいいですか?」と、ちょっと気になった事を質問してみる事にした。
「どうぞ」
「コンプレックスとは言っても、別にその事に対して劣等感や、特に羨ましいと思ってない場合でも、コンプレックスって言えるんですか?」
俺の疑問に先生は笑いながら「本條さんの事ですから、そう言うと思ってました」と言った。俺はバカにされた気がして、再びムッとしながら話した。
「だって、普通はそうでしょう?劣等感や、羨ましいと思う気持ちが、コンプレックスになるんじゃないですか?」
「そうですよ」と、先生は当たり前のように言うと、そのまま話を続けた。
「先日も言いました。本條さんは無意識のうちに、マイナス思考や感情を抑え付けてきたのではないかと」
俺は頷いて黙ったまま、先生の話を聴いていた。
「俺がさっき、本條さんなら・・・って言ったのは、この前提があるからです。コンプレックスに関しても同じ事が言えるんじゃないかと思ったんです。実際、そうなんじゃないですか?」
「そうですね、比べる必要はないと思ってました。劣等感を持つというのは、自分の努力が足りないから。他の人を羨ましいと思う前に、自分もそう思われる努力をしよう。ずっとそんな風に考えていて・・・それがいつの間にか、当たり前のようになってました」
俺がそう言うと、先生は「ストイックというか、ポジティブというか・・・強メンタルですよね」と呟くように言うと、少し間を置いて付け加えるように言った。
「ここに入院する間でもなかった気がするんだよな・・・」ボソッと呟いた先生の一言に、思わず「えっ?」と、大きな声が出た。
「あ、いや勿論、必要があったから入院する事になったんですけどね。ところで、さっきのコンプレックスについてなんですけど、何か気付いた事でもありました?」
(ん~でもこれって・・・コンプレックスに当て嵌るのか解らないけど・・・話してみるか)そう決心して、話をしてみる事にした。
「前にも言ったと思うんですけど俺・・・この歳になっても恋愛経験とか、その・・・アレの経験もなくて。その所為かは解らないですけど、色気がないと言われてしまって・・・」
俺は話をしてる途中から、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきて、最後の方は思わず声が小さくなってしまった。
「経験と色気は関係ないと思いますけどね」
「でも・・・」と言うと、先生は考えながら続けて話をする。
「そもそも色気って、意識して出したり引っ込めたりするものじゃないでしょ。俺から見た本條さんは、芸能人特有って言うのか・・・そういうオーラが出て見えます。でもそれって、本條さん自身は気付いていないだろうし、意識して出している訳でもないと思うんですよね」
俺は先生の話を聴いて(なるほど、そういうものなのか)と、思わず頷いた。まぁ、芸能人特有のオーラについては、時と場合と人によるとは思うけど。
「俺ってそういうオーラ出てるんですか?」
「ご本人を目の前にして言うのも何ですけどね・・・正直、眩しいって思う時ありますよ。よく華やかなオーラとか光のオーラとか聴きますけど、それと同じだと思います」
(もしかしなくても、俺褒められてるんだよな?)とそう思ったら、凄く嬉しくてさっきまでの恥ずかしさが一瞬消えて、一つの疑問が湧いた。
「なら、先生が思う色気って何ですか?」
「改めて聞かれると、俺にもちょっと・・・答えに困りますね。男女でも感じ方って違うと思いますしね。でも単純に言うなら、性的な感情に繋がるかどうか・・・ですかね?」そう言って先生は悩み出した。
「性的な感情というとその・・・そういう行為の事ですよね?」
「そうですね。まぁ、あまりにも即物的過ぎるし、正確な答えではありません。大体、相手に色気があるからセックスしたくなるのか、そうじゃないのかも漠然としてます」
(前から思ってたけど、先生って割りとそういう事、恥ずかしげもなく言うよな・・・医者だからなのかな?)
「先生の個人的な意見としては?」
「ん〜・・・時と場合と相手によりますかね。単なるノリだったり・・・それこそ相手の方に色気があって、その気になる場合もなくはないし・・・ん〜これ、色気は関係ないですね」
そう言いながら、先生は困ったように笑った。俺は(その顔も可愛い・・・)と思ったが、ふと先生の言葉を反芻して気付いた。
(ノリ?先生ってノリでそういう事するの?)と思ったら、またしても心の奥底の方で、なんとも言えない感情が湧き上がった。
「先生は好きでもない人と、そういう行為をするんですか?」
「え?」
「ノリでそういう事が出来るんですか?」と矢継ぎ早に、問い詰めるような責めるような言い方で、先生に感情をぶつけた。
(ダメだ、イライラする・・・)と、思った次の瞬間には先生の手首を掴んでいて、抑え切れない感情が爆発して、最低で最悪な言葉が口を吐いて出た。
「だったら俺の相手もしてよ」
最初のコメントを投稿しよう!