服を着ることをオススメします

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服を着ることをオススメします

 お風呂上り、タンガにバスローブを羽織っただけの気の抜けた格好が出来るのは、一人暮らしの醍醐味だ。 都内に3店舗あるエステサロン modération (モデラシオン)の経営者として、私、岡本由香里は、外では「いい女」を装い続けている。だからこそ、部屋では楽な格好をしていたい。 冷蔵庫から缶ビールを取り出して、プルタブを引き上げると、パシュッと小気味良い音がする。  直接口をつけ、黄金の液体を見ることなく、一気にのどへ流し込み「ぷはーぁ」とお行儀悪く息を吐き出した。 「今日も一日頑張った。この後、ワインも開けようかな?」  鼻歌まじりにソファーへ腰掛け、スマホの通知をチェックしようと持ち上げた。すると、タイミングを見計らっていたかのように、スマホから着信の音楽が鳴り始める。画面に表示された「岡本勝代」という表示を見た瞬間に、思わず顔を歪めてしまう。上がっていた気分も急降下で、ため息交じりに画面をタップした。 「母さん、なんの用?」 『由香里、ちょっとお願いがあるんだけど』  母からのお願いに嫌な予感が走る。  実業家で恋多き母は、ロマンスグレーのイケメンと4度目の結婚を果たし、幸せの真っ最中。(スマホの登録は面倒なので旧姓のままだ)  恋に生きる彼女は、永遠の愛を4度も誓うことになんの抵抗もない人なのだ。  そして、振り回されるのは、いつも娘である私の役目で、ホントうんざりしている。 「これから約束があるの。今度、ゆっくり話しを聞くわ」    今日は約束なんて無かったが、早々に電話を切りたくて言い訳をした。しかし、それが通るような母ではない。 『大丈夫よ、すぐ終わるわ。ヒロくんがね。ちょっと困っているのよ。住むところが無いんだって、あなたのマンション部屋が余っているんでしょう? だから、行くように言っておいたから、留守にするなら、コンシェルジュに通すように言って置いて』 「はぁ⁉ 冗談でしょう? 自分の家で預かればいいじゃない。なんで、私のところなのよ」 『ほら、うち、新婚だから前夫の連れ子を部屋に上げるわけにいかないじゃない。その点、あなた独身だし問題ないわよね。じゃあ、よろしくね~』 「えっ⁉ ちょっ、ちょっと待ってよ!」  声を上げてみたけれど、スマホからは、ツーツーツーと無機質な音が聞こえるだけだった。   「冗談じゃない……。28歳独身の娘のマンションに、血のつながりがない元義弟を送り込むのは問題じゃないの⁉ あんのババァ!」  思わず悪態が口をつき、缶ビールの空き缶をクシャリと握りつぶした。  
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