最後の整形

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ワタシはある日突然キレられた母に美容整形をすすめられた でもなんとなく分かってた ワタシの顔見るたびにため息をついてなにかを言いたそうにしていたから。 結果、ワタシは美容整形はしなかった だって痛そうだし いじめられるにも原因があるはそれはそうなんだろうけど、罰せられるべきはいじめてくる側のはずだから、なぜワタシが頑張らなきゃいけないのか。 実際、録音してこんないじめをされましたと 相談したらちゃんといじめっ子側は退学処分させられたし、ざまあみろって感じ ……で、母とは仲直りしたのかというと 「アカリちゃん久しぶりねぇ 元気な顔見れてお母さんうれしいわ ご飯食べていくでしょう?いま用意するからまっててね〜」 るんるん、と台所にむかっていく 明るい笑顔をふりまく母はやさしい だが仲直りしたわけではなかった。 美容整形は昔から技術が進歩し いまはこんな宣伝文句がある 『ギャンブルをやめたい! 暴力をやめたい! 酒タバコをやめたい!そんなあなた 心の美容整形いかがですか』 研究が進み、心というかまあ脳なのだが 人類は性格のようなものがいじれるようになった。 ギャンブルをやめたい という一部分だけをおさえることが可能なのだ。 しかし人権にかかわるということで 数年前は犯罪者や虐待親などにしか適応されなかった。その頃は一部どころか、性格が丸々変わってしまうほどの整形しかできなかった。 そう、ワタシはあのとき、うたれた頬を痛めながら深夜、訴えにいったのだ ワタシは母から虐待されてます 母の心を整形してください と お金をとろうとしてはじめて殴られただけで 虐待ではなく、まあ当然だったのだが はっきりとブサイクだの整形だのいわれたワタシは怒りをおさえきれずに 母を罪人に仕立て上げてしまった 捏造の虐待の証拠を提出し 市は母が眠ってる間に心の整形を行った。 それが、彼女が受けた最後の整形だった。 彼女はとてもいい母になり 気分よくワタシは数年後自立していった しかし実家を掃除していて 母の日記を見てはじめて知った 母自身も親から美容整形を強いられて育ったこと ワタシに当たり散らしたことを申し訳ないと思っていたこと。 明日謝りたい やり直したい 学校の話をちゃんと聞いて 休みの時間を一緒に過ごして 歩み寄って これからはいい母になりたい と思っていたこと 「あのさあ、ごめんねお母さん」 「あらどうしたの 急に謝るなんて、謝るようなことアカリちゃんなにもしてないじゃない」 「……お金とったじゃん、反抗してばっかで、感謝もなにもしなかった お父さんとこの前あったんだけどさ やり直したいっていってたよ 整形してたの知らなかったんだって 整形じゃなくて浮気で子供の顔が違うんだと思って怒って出て行っちゃったんだって」 「……そうだったの でももう過ぎたことだし、そんなことに縛られなくていいのよ おしまい、やり直しましょう お母さんはね、あなたたちがいま幸せならそれで充分」 きれいな言葉がぺたぺたとはられていく 親からは顔を整形させられ 娘からは心を整形させられ 彼女は一体、今、何者なのだろう 彼女を彼女と証明するものは何が残っているのだろう ワタシは自分の罪から目をそらすように また実家からでた 次は、うん、お盆休みに帰るくらいかな 生きているけれど もう謝ることも やり直すこともできないのだろう ただきれいな顔で、きれいな心なだけの 母のような「何か」を置いて end
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