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扉
「おい、彰!後ろ──」
裕介の引きつった声に振り向いたとき、初めて彰は、この軋むような音の意味を理解した。
騙された。
変人である伯父の甘言に騙され、まんまとこの山奥までやってきた自分が悪かった。
あの男の言うことのうちに、一つでも胡散臭くないことがあるわけがない。ゆえに、この館はいろいろと──特に入り口が、危ないのだ。
不気味な音を甲高く響かせながら、入り口の門扉が閉じていく。
──館の入り口は特別だからな。一度閉まったら、俺の持ってる鍵なしには開かねえぞ。
この洋館の持ち主である伯父がそう言っていた、巨大な鉄の扉が。
閉まっていく。
「どうしよう、あれが閉じたらもう外には──」
「よせ!もう手遅れだ!」
裕介の声を無視して、彰は扉に駆け寄った。
人間の力ではどうすることもできないと理解しながらも、隙間を狭めゆく2枚の鉄の板に手をかけ、渾身の力をこめてこじ開けようとする。
後ろから裕介が駆けて来る。
この大馬鹿、と悪態をつきながら、隣で手を突き出し扉を開こうと手を添える。
だが、その途端──
彰が反射的に手を離し祐介とともに数歩後ずさった瞬間、扉は重い音をたてて完全に閉じきった。唸り声のような低音がとどろき、館全体をを揺らす。
重い残響が、壁に吸い込まれて消えた。
やがて、辺りは沈黙に包まれた。互いの呼吸する音すらも聞こえなかった。
目の前には、ただ閉ざされた門があるばかり。接近していると、もはや模様の描かれた分厚い鉄板でしかない。
けれど、これは扉なのだ。
この古びた洋館の内と外を繋ぐ、唯一の出入り口。それは今や、二人の退出を阻む鉄壁の番人に過ぎない。
「嘘だろ・・・・・・」
あまりのことに呆然としながら、彰はつぶやく。
「ここから出られないなんて」
口にすると同時に、大波のように絶望感が襲ってきた。
連絡手段も脱出手段もない。立て付けの悪い窓は開かないし、電波は繋がらない。
「どうするかな」
裕介の言葉も、どこか沈んでいた。
この館が建つのは、人里離れた山の奥。今から一時間もすれば、下山する頃には周囲は真っ暗になってしまうだろう。
成すすべもなく、途方に暮れるしかなかった。
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