凍て解け

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 私は荷物を抱えて慣れた足取りでアパートの角部屋、105号室へと向かう。玄関前で一度荷物を下ろすとインターホンを押し、しばらくすると応答があったのでマイクに近づく。 「佐倉さん、オリオンスーパーです! お届けにあがりました!」 「今開けるから、少し待ってね」  荷物を抱えなおして待っているとほどなくして玄関が開いた。 「大場さん、いつもありがとう」 「こちらこそ、いつもありがとうございます! ――今日の荷物も重いから、中に持って入ろうか?」 「そうね。お願いしてもいいかしら」  了解を貰うと、扉を押さえて貰っているうちに中に入る。靴を脱ぐとそのまま廊下を抜けてリビングまで行く。机の上にはミシンと布地が広げられていたので端にダンボール箱を置いた。 「ごめんなさいね散らかってて。こんなに沢山、大変だったでしょ」  少し遅れて佐倉さんが壁に手をつき、右足を庇いつつやってきた。 「ぜーんぜん。私、体力には自信あるから! それでこれは何を作ってるの?」 「新一年生の子が持っていく手提げ袋よ。この時期は依頼が多いから助かるわ」  佐倉さんはハンドメイド作家だ。自作のアクセサリーやカバンをネット販売したり近くの手芸店で講座を開いている。季節の花々をあしらったピアスが素敵で私も一目ぼれして買ってしまった。 「へーそんなこともやってるのね。私も知っていたらお願いしたのに」 「次の機会はよろしくね」 「その時はお願いするわ。そうだ! ついでだから、これ棚の中にしまっとこうか」  私が箱を指さして言うと緩く首を振った。 「そこまでは大丈夫よ。最近は調子もいいし」 「ほんと? 遠慮しなくてもいいのよ。他にも電球が消えかけてるとか、何か困っていることがあったら言ってよ」
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