第1話「問題は……店長がこっちに見向きもしてくれないってこと」

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第1話「問題は……店長がこっちに見向きもしてくれないってこと」

43c30b7e-e197-48c6-a865-a0280b34abea  ひとにはそれぞれ、特技がある。  私、大泉葉子(おおいずみ ようこ)は魔法が使える。なぜなら 魔女の末裔だからだ。  といっても、人を消したり龍を呼び出したりできるわけじゃない。もっとちいさい、ちゃちな魔法だ。  たとえば、どしゃ降りでも私の傘の下だけは青空にしておける、みたいな。  そんな小さな魔法が使える以外は、まったくの普通人。だから仕事だって普通にある。  職場はビアガーデン。立ち仕事はきついけど、店長が好きだから頑張れるの。  そう、店長。色川玲(いろかわ れい)。31歳、身長173センチ、体重65キロ。ちょっと細身だけど、接客業ってつまり肉体労働だから、身体はしっかり鍛えられている。つまり細マッチョ。  まあ顔は、それなりだけど。責任感が強いし、部下をかばってくれるし頼りになる。  やっぱりそういう男がいいよね。かっこいいけど浮気好きなチャラ男なんて、遊びで付き合う程度でいいの。  好きな人がいて、その人と毎日あえるって、もうそれだけで女子はハッピーになれちゃう。  問題は……店長がこっちに見向きもしてくれないってだけど……。   いいの、推しがいるっていうことは、毎朝おきる理由をくれるから。  それだけで。  ……まあ、幸せ。  どんなに体がきつくても、私は毎日嬉々として職場に通う。  ところが今年は雨続きでビアガーデンは開店休業。シフトがどんどん減って、ついには自宅待機になっちゃいそう!  困る、困るのよ。何とか晴れてくれなくちゃ……、  そこで私は、ビアガーデンのパラソルに魔法をかけた。  パラソルを開くと、その下だけが青空になるという魔法だ……。
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