告白は体育館裏で

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体育館の裏。 告白の定番の場所。 いつも思う。 体育館の裏は予約制ではないし、他の用途で使用される場合もある。バッティングした場合、どうするのだろうと。どこかに受付があって、予約を受け付けてくれればいいのにと思う。 2月14日放課後 3年3組 桜川結衣 告白 「バレンタインに体育館裏ですか?」 ポーカーフェイスで受付の人が事務的に言う。 バレンタインの日は、どこででも行われていますから。でも、案外キャンセル待ちも多いのですが、と。 3月14日放課後 1年5組 田宮和樹 告白 「ホワイトデーにですか?」 ホワイトデーに体育館裏とは、本命チョコへのお返しでしょうか、と、興味があるようには見受けられない様子で聞かれて、でも答えられなくて、それでも淡々と手続きが進むので、あなたにも、と小さなマシュマロの包みを渡した。一瞬驚いた様子で、けれどやっぱり一定の調子を崩さないで、ありがとうございます、と言いながらも、いつの間にかその包みは僕の手に戻っていた。 顔の見えないその人は、いつも体育館の裏の管理だけをしている謎の人。 3月14日放課後 1年1組 桜川夏 告白 「その日は、先約があります。」 あっさりと言う。 ねぇ、わかるでしょ。他の日じゃダメなんだ。食い下がっても答えは変わらない。予約者も教えてもらえない。先輩にこの日に会いたいんだ。どんなに訴えかけても、変わらない。 同じ名字だからって、すぐに仲良くなって、新入生の俺に色々教えてくれて、そしたら好きになっちゃって、でも先輩だし、受験生だし卒業だし秘めていたのに先輩からバレンタインにチョコを貰えて、でももうすぐ会えなくなっちゃうから、チョコを貰った同じ場所で告白したいんだ。その日にはもう、先輩学校に来てないんだ。 それでも受付のその人は、何も言わない。 暫く無言で居座っても、何も。 1分、2分… 「変わってあげようか」 後ろから声がした。 その日、僕が予約したんだ。 聞いても教えてもらえなかった、先約者だと言う人が目の前に現れた。 僕なら、もういいんだ。当日を迎える前に、もう返されちゃって。でも、まだ可能性があるかな、と思ってそのままにしていたんだよ。だって、もう一度会いたくて。もう一度話がしたくて。でも、君も、君のその場面も見たい。その日、僕もここにいてもいいかな。 嬉しいやら、恥ずかしいやらの提案をされる。飲めば、予約は変わってもらえそうだけれど、だけどこの子の望みは。 ねぇ、僕もここにいていいかな。君のその後を待っていてもいいかな。 にこにこと言う君に、もしかしてと思う。 同時に、でも、と思う。 「君…」 にこにこしている。 俺は、予約を受け付けているその人を見る。 人肌の温かさを持っていない、声は聞けるけど、目を見つめることも出来ないその人、たぶん会えるのはこの場所だけで、会えるのは通学しているだけの間で、大体この人は… 「おかしいよね。僕もわかってる。でも、会いたくなっちゃうんだ。声が聞きなくなっちゃうんだ」 そう言うと、呼び出しボタンを押して、予約の確認をする。そして、予約人数の変更の手続きをした。 告白。 「三角関係ですか?」 使用用途は、変わらない。淡々とした声で聞くその声に、思わず吹き出しそうになりながら、俺たちは笑いあう。 でも、君は、と少し心配になる。 今、受付の手続きを終えた空間を見ながら。 「この2日間だけ、音楽室にもあればいいのにね」 君は言う。 「それなら常備でしょ。あそこも」 そんな物語も生まれるかもしれない。
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