05.洗練された、そして多分に商業的な

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05.洗練された、そして多分に商業的な

 それは大都会の大規模な夏祭り。僕の田舎の小さな町の夏祭りとはぜんぜん違う、洗練された、そして多分に商業的な祭り。  夜の闇を照らすのはスタイリッシュなデザインの照明。出店もイベントステージもなにもかもが洗練されている。立ち並ぶ出店には、聞いただけではよくわからない外国語の食べ物や飲み物が並ぶ。  もちろん、昔ながらのたこ焼きとか焼きそば、りんご飴やわたがし、金魚すくいの出店だって並んでる。そっちの方が落ち着くのは否めない。  僕と恋人の紗季はふたりでこの夏祭りにやってきた。子どもの頃とは違った種類の夏の激しい暑さの余韻が、まだまだ夜の闇の中に満ちていた。出店やステージを見てまわった僕たちはすっかり喉がカラカラだった。  そんなとき、立ち並ぶ出店の店先で、僕はラムネの文字を見つけた。 「なるほどねえ。『A玉』を見つけたら幸せになれるねえ……」  僕の隣で恋人の紗季が、そうつぶやきながらラムネの瓶を見つめる。 「小学校のときの友だちがそう言ってた」 「それで、勇輝は今までに『A玉』を見つけたことがあるの?」  紗季が僕にたずねた。意地悪な質問を楽しんでいるような表情で。
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