01.人々を誘惑するむき出しの電球

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01.人々を誘惑するむき出しの電球

 小学生にとって友だち同士で夏祭りに行くというのは、ちょっとした心踊る冒険みたいなものだ。  いや、「ちょっとした」どころではないのかもしれない。それがたとえ近所で開かれるようなこぢんまりとした夏祭りであっても。  夕暮れの色に染まる空が広がるけれど、完全な日没までにはまだ遠い、そんな時間。  通路の両側を埋める並ぶ出店に、人々を誘惑するむき出しの電球が輝く。たこ焼きを焼く鉄板、金魚すくいの水槽、綿菓子の機械。  夕闇に浮かぶ夏祭りは現実を忘れる幻想。  僕たちは光に吸い寄せられる虫のように、夏祭りの出店をのぞいていった。  と言っても僕たちは小学生だったから、手にした小遣いは微々たるものだ。それでも、僕は人混みにまみれながら出店をのぞくだけでも十分に祭りの雰囲気を堪能していた。  なんといっても口うるさい親はいないし、夕闇が街を染める時間に子どもだけで遊びのために外出するなんて、夏祭りくらいしか許されていなかったから。僕たちは夏祭りの会場を全力で回遊する。 「なあ、喉が渇かないか?」  昼間の熱の余韻と夏祭りの熱気の満ちる空気の中で竜星が言った。夏休みに入り、真昼の町を毎日、本格的に炙る真夏の熱の余韻が、まだまだ夕闇に残されていた。
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