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10.今度どこかで
紗季は僕の目を見て、あきれたような顔を浮かべる。
「そんなこと、とっくに知ってたよ。というより、あのときだって知ってた」
酔いのまわった頭を抱えたまま、僕は紗季を見つめる。
「え? あのときも知ってたの?」
「わりと有名な話だと思うけど」
紗季はそっけなくそう言った。僕は全身から力が抜けそうだ。
「まあでも、そんな話信じてる人なら、この人は悪い人じゃないって思ったの。騙されやすい人かもしれないけど、人を騙すことはできない人なんだなって」
そんな紗季の告白に、僕はリビングのソファに身を沈めることしかできない。
「でも、私はあのときのビー玉は『A玉』だって思ってる。だって、私たちに幸せをもたらしてくれたから」
僕はソファに身を沈めながら、無言で天井を見つめる。少し考え事をしたあと、紗季に告げる。
「今度どこかでラムネ見かけたら買ってくるよ」
(おわり)
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