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06.君がそう思うのなら
僕は紗季に向かってこたえる。
「ううん。僕はまだ『A玉』なんて見つけてない。友だちは言ったんだよ。ひと目見ればすぐにそれが『A玉』だってわかるって」
紗季は彼女の分のラムネを飲み干し、空になったラムネ瓶を軽く振った。空のガラス瓶の中で、ビー玉はカラカラと転がる。
「私のは『A玉』かな」
「じゃあ、取り出してみよう」
僕は彼女のラムネ瓶の飲み口を覆うプラスチックのカバーを外し、瓶の中に転がっていたビー玉を彼女の手の上に載せた。
紗季はそれを指先でつまみ上げる。
彼女の指先につまみ上げられたビー玉は、周囲の明かりをその小さなガラス球に映し出し、キラキラと星のように細かな光を放つ。まるで、竜星と一緒にラムネを飲んだときのように。
「これって『A 玉』じゃない? こんなにきれいで丸いんだから」
紗季がビー玉を見つめながら言った。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。僕は判断がつきかねた。
竜星は言った。『A玉』はひと目見たら「これだ!」とすぐにわかると。でも、僕はそのビー玉に「これだ!」という確証は持てなかった。
でも、紗季の指のあいだでキラキラと輝くビー玉を眺めているうちに考えが変わった。
「君がそう思うのなら、きっとそれは『A玉』だよ」
僕の言葉に紗季はやわらかな微笑みを浮かべる。まるで、大事な宝物を見つけたときの子どものような微笑み。そんな紗季の微笑みを見たとき、僕は確信した。
この人となら、一生やっていけるかもしれないと。
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