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08.ビールのジョッキをテーブルに
僕は紗季との出会いと人柄を、竜星にかいつまんで説明する。
よくある話だよ。仕事でちょくちょく顔を合わせるようになって。取引先の人だったんだ。それで、職場同士で会議や食事をするうちにね、互いに意識するようになったってわけだよ。
紗季ってどんな人かって? うーん、そうだな。本人は自分を几帳面でしっかり者だと思っているけど、実はおっちょこちょい。あと、料理は好きで休日にはいろんな国の見たこともないような聞いたこともないような料理をよく作る。
「でもある意味、竜星のおかげだよ。彼女と結婚したのも」
最後に僕はそう言った。竜星は不思議そうな顔。
「結婚したのがオレのおかげだなんて、いったいどういうわけなんだよ」
僕は紗季と出かけた夏祭りの話を聞かせた。
「ラムネに入ってる『A玉』の話をしているうちに、紗季の持ったビー玉が『A玉』なんじゃないかって思ったんだよ」
そんな僕の話を聞いた竜星は、ビールのジョッキをテーブルに置き、神妙な顔つきを浮かべる。
「『A玉』の話なんてまだ信じてたのか、勇輝」
「?」
竜星の言葉が意味するところをつかみきれない僕。そんな僕に竜星は苦笑しながら口を開く。
「今だから告白するけど、『A玉』の話なんて単なる都市伝説なんだぜ。本当はビー玉に『A玉』も『B玉』もない。ラムネの中のビー玉はただのビー玉だ。それ以下でもそれ以上でもない」
竜星の意外な告白に、僕はあっけに取られるほかない。
「マジか、すっかり信じてたな。僕なんてそれで結婚までした」
あきれた僕は笑うしかない。竜星も僕に釣られて笑い出す。僕たちの笑い声は、居酒屋に満ちる酔客たちの笑い声に紛れていった。
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