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09.秘密にするほどの話でもない
「遅くなってごめん」
竜星と飲んでてすっかり遅くなった僕。マンションの部屋の鍵をそっと開けてリビングに向かうと、紗季が眠い目をこすりながら出迎えてくれた。ソファの上に彼女のスマホが転がっていた。
「おかえり。ずいぶん盛り上がったみたいね」
「なにしろ十年ぶりだからね」
寝室では子どもが寝ているので、僕たちは声を潜めてそう会話する。
「どうだった? 子ども時代の親友とのひさしぶりの再会は?」
紗季が出してくれたグラス一杯の水を飲んだ僕は、少し迷ったあとで彼女に切り出す。秘密にするほどの話でもない。
「ねえ紗季、覚えてる? 結婚する前に夏祭りに行ったこと。その夏祭りで一緒にラムネ飲んだことも」
「どうしたの急にそんな昔の話なんて」
紗季が戸惑うのも無理はないだろう。たしかにもう「昔の話」だ。
「そのとき、ラムネ瓶の中のビー玉には『A玉』と『B玉』があるって話したじゃん。『A玉』はめったにない一級品で、それを見つけると幸せがもたらされるって」
「うん。覚えてるよ」
紗季は当然だというようにうなずいた。僕は意を決して紗季に告白する。
「その話、ただの都市伝説なんだってさ。ラムネ瓶の中のビー玉に『A玉』も『B玉』もないんだって。ビー玉はただのビー玉でしかない」
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