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嘘吐きな「ふたり」
小学二年生の時、僕はとある動物を拾った。
どうしても家で飼いたくて、僕は家族に嘘を吐いた。
ちゃんと世話をするという約束をして、僕は「猫」を飼った。
けど、実際は……犬だ。この垂れた耳はどう見ても犬。
父が犬が嫌いな人だったから、僕は嘘を吐くことにしたのだった。「猫」のみーちゃん。本当は犬なのに、似合わない名前をつけてごめんね。
父と母にも、いつか真実を告白しないといけない。みーちゃんが成長したら最終的にバレることだけど……それより先に謝らないと。
ね、みーちゃん。
僕は勇気が貰いたくて、ぎゅっとみーちゃんを抱きしめた。
***
「ユースケ、今の猫缶は飽きた。チェンジを要求する」
「……」
僕の膝の上でみーちゃんは伸びをする。
なんてことだ。
みーちゃんは猫じゃなかった。
猫又っていう妖怪だった。もう二十五歳になる。それは僕と出会ってからの年齢で、本当はもっと生きているらしいけど。
「我、ただの猫じゃないからな」
みーちゃんがそう告白してきたのは、拾って半年後のことだ。
僕は驚いて、手に持っていたキャットフードを床にばら撒いてしまった。
「姿も年も変幻自在。子猫じゃないから、そんな子猫向けのご飯じゃなくて良いのよ。もっと高い奴にしたまえ、少年」
「……」
妖怪を実家に置いておくわけにもいかないので、僕は就職と同時にみーちゃんと一緒に家を出た。ペット可のマンションで「ふたり」暮らし。いつまでこの生活が続くんだろう。みーちゃんは、今の暮らしに不満は無いらしく、自分から出て行こうという気は無いらしい。
「安月給でごめんね」
僕は、煮干しをみーちゃんに差し出す。
それをみーちゃんは「昔ながらの味」と満足そうにくわえた。
「ま、我ら嘘吐き同士で仲良くやっていこうや、ユースケ」
「……はあ」
もぐもぐと、みーちゃんは煮干しを食べながら言う。
「お前がくたばるまで、ちゃんと見届けてやるからな」
欠伸をしながらそういうみーちゃん。
これは長い付き合いになりそうだ。
もう、どっちが飼い主か分からない。
眠そうに仰向けになったみーちゃんの腹を、僕はそっと撫でた。
嘘吐きな僕たちの休日は、こうしてのんびりと過ぎていくのだった。
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