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マイ・リトル・ヒーロー
もし明日が、世界最後の日だったら何をする?
それが今回、私が子供たちに出した作文のお題だった。道徳の授業の一環である。作文だと言ったとたん一部の子供たちは露骨に“そんなの国語の時間だけでいいじゃん!”と文句を言ったがスルーだ。まあ気持ちはわからなくもない。作文というものは基本的に、ものすごーく得意な子とものすごーく苦手な子が大半を占めているのだから。
ものすごーく得意な子にとっては、一枚どころか十枚を埋めることだって簡単だという子もいる。そういう子はきっと、一枚どころか一行目さえ出てこなくてうんうん唸ってるタイプの気持ちは理解できないのだろう。そして、作文が得意な子は普通の授業が苦手という子もいる。私が作文にしますと言った途端、一番大きな声で文句を言っていた男の子の隣の女の子は明らかにほっとした顔をしていたのだから。
四年一組の教室はにぎやかだ。元気で明るい生徒が多くて、今のところ大きなトラブルもなく、担任教師の私も助かっている。自分が子供の頃はどうだっただろう、と思ったが――男の子に交じって鬼ごっこをしたり、同じクラスのガキ大将と喧嘩してお呼び出しを食らったような記憶しかない。あの頃の私のヤンチャぶりと比べたら、このクラスでちょっと騒ぐくらいの男子など全然かわいいものではなかろうか。
「難しく考えなくていいのよ」
私は子供たちを宥めるように言った。
「ただ、自分だったらどうするのかをまじめに考えて書いてくれればいいの。家族と一緒に過ごすとか、友達とゲームをするとか、旅行に行くとか……とにかくなんでもいいから。できれば、きっちりとした長さで書いてくれると嬉しいけどね。当たり前だけど成績には影響するんですからね」
「うげえ」
「俺、とりあえず猫のリョータ連れて日本から逃げまーす!」
「お前な、世界最後の日だつってんじゃん。日本だけ終了じゃないんだから日本の外に逃げても意味ねぇの。ていうか、坂本、お前外国語わかんの?」
「でぃす、いず、あ、ぺん!なら!!」
「それわかってるのうちに入らねーよ!」
あはははは、と上がる笑い声。ちょっと騒がしくなってしまったが、発言した坂本少年はきっと意図的にみんなの緊張を和らげようとしたのだろう。このクラスのムードメーカーで、みんなの信頼も厚い人物だからだ。将来はコメディアンになりたいと言っていた気がする。
「とにかく、残りの授業時間で書けるところまで書いてね。終わらなかった人は宿題になりますからね」
「ぎゃー!」
宿題と聞いて、宿題アレルギー持ちの数名がわざとらしくひっくり返った。そんなコントを繰り広げている少年たちの横で、一部の生徒は早々に鉛筆を走らせ始めているのだった。
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